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持続可能性・SDGs

新着情報

Goal4「質の高い教育をみんなに」

南部 広孝 教授 (教育学研究科)

 

Q南部先生がされている研究について教えてください。

比較教育学という分野の研究をしています。社会の中には考え方や価値観の違いによる境界線が存在しますが、比較教育学は国や社会、文化といった境界線を意識しながら教育について考える分野です。この分野の中でも主に、中国の高等教育について研究しています。また、少し前まで、社会主義体制だった国や現在社会主義体制を採っている国の教育を扱い、民主化など社会のあり方が変わっていく中で、教育のあり方がどう変わっていくかについても研究をしていました。中国の研究が中心ですが、そのほかの国と比較をする中で何か共通の法則が見えないかと研究をしています。最近はこれらのことを中心に大学院教育などもう少し広く比較ができないかと考えています。

今考えていることとしては、社会の中に存在する境界線の引かれ方がどんな風になっているのかということと、それをどんなふうに考えて行ったらいいのかということです。

 

Qこの研究を始められたきっかけを教えてください

中国は大学に入る前から興味がありました。あるテレビ番組で中国の広い平野一面に広がる田園風景を見て、中国にすごく関心を持ちました。教育に関しては、もともと中学か高校の教師になりたいと思っていました。しかし京大に入ったことで、教育そのものについて考えることになったので、昔から興味のあった中国の教育について研究をすることにしました。

もう一つのきっかけとしては、京大に教員として帰ってきたことが大きいと思います。京大の中では色々な先生や、色々なテーマを抱えた院生たちと話をします。話をする中で私も様々なことを考えます。インドやエジプトといった院生が持ってきたテーマを集めて、今は一つのチームでやっています。そうすると、僕が中国を見ていただけでは分からない色々なことが世界中にあることを知り、それらをうまいこと組み合わせると違うものが見えてくるという経験をたくさんします。そうすると中国の研究からもう一つメタなところに上がることができます。このメタなレベルでの話が通じるということは、京大に来た大きなメリットだと思います。僕自身はやりたいと思うことだけをやってきたつもりですが、振り返ると色々なところから刺激を受けて、自分の核はずっと持ったままで、それを少しずつ広げていく経験をさせてもらっていると思っています。

 

Q質の高い教育についてどう思われますか?

教育の質って本当に難しいことだと思います。SDGsやこういったものでは、数値目標を設定するのですが、教育とは数値で測りきれるものではありません。ここでの一つの考え方としては、数値では測れない教育はあるけれど、達成度をはかるために数値で測れるもので勝負するというものです。確かに測り方を工夫すれば、単なる狭い意味での学力だけではなく、考え方や論理的な説明能力などまでは測れるかもしれません。しかし一定のラインを超えてくると、主観的なものにならざるを得ません。そうなってくると数値化すること自体の意味が分からなくなってきます。今のSDGsではこの段階を超えられていないのではないかと考えます。学力などは比較的数値化しやすいと思いますが、学力だけをつけさせれば、それで質が高いと言えるかというと違和感が残ります。

もう少し引いて考えてみると、そもそも学校に行くことはそれほど正しいことなのか、ということもあります。途上国の開発では、学校を建てて子供達を学校に行かせることがプロジェクトになったりします。その一方で日本などの先進国では、学校に行かない子供達に、学校教育ではないような形の教育を受けさせたりしています。つまり先進国の中では学校教育の限界が見えているわけです。学校教育の限界を越えるために何をするか、ということを国内では考えています。その一方で途上国の教育を考える時には、学校をとにかく建てましょうとなります。そこの矛盾に僕はすごく違和感があります。学校にももちろん重要な役割はありますが、学校を建てれば問題が解決すると言う短絡的な発想には賛成しません。学習者一人一人にとって一番いい教育は何かと考えると、必ずしも学校を建てることではないと思います。もちろん学校を建てることでより望ましい学習成果を得られる人が多数いるということは、おそらく正しいことです。そこまでは否定しません。それでも就学率95%を100%にしたことで学習者一人一人が幸せになったのかと言うと、必ずしもそうではありません。質の高い教育という目標に対して設定されている指標を見ると、学習者一人一人にとって質の高いと言うよりも、集団としてどれくらい方向付けられたかと言うところに焦点が置かれているのではないかと感じます。それで質の高い教育と言うのは、少し気持ち悪さがあります。極端に言えば、一人一人にとって質の高い教育が施されることが必要です。それは必ずしも学校教育である必要はないのではないかと考えています。

SDGsの目標の中で言われる質の高い教育とは、質が高い教育と言われるものの中で、みんなで妥協しあって抽出した核の部分だけだと思います。その核も当然何かの価値に裏打ちされているものです。この価値は誰もが納得できるものかと考えると、多くの人のなのか、世界の中で強い人のなのか、といった何かがあるのではないかと思います。みんなと同じようにしてあげることが必ずしもその人を幸せにするとは限らないし、線を引くことで私たちとは違うものとしてしまうのも望ましくないかもしれません。こういった難しさがあります。これらのことは、これから考えていかなければならないことです。

 

Q 新入生に向けて一言お願いします。

たくさん対話をしてほしいです。ここでの対話には二つあります。一つはいろんな人と対話をしてほしいということで、もう一つは本を読んでほしい、本の著者と対話をしてほしいということです。論文ではなく、本です。論文は相当焦点が絞られたことを切り出して、その論点に対して自分が言いたいことを一言述べるというものです。著者と対話するにはそれでは短いと思います。本は一定の長さがあって、何をきっかけにして、何に取り組んで、どんな風に取り組んで、どんな風に考えて、どんな結論を導いたのかという一塊の思考のプロセスが記されています。本は論文とは質が違うものです。最近の学生はネットでお手軽に論文を探しきて、「論文では・・・」とやるのですが、何かを考えるというときに横に置いておくべきものは、論文ではなく本ではないかと思います。そういう意味で本の著者と対話をしてほしいということが一つ目です。

もう一つの色々な人との対話をしてほしいということですが、自分と異質なものと触れてほしいということです。日本国内にも自分と違う人も物もたくさんあると思います。そういうものに対して安易に線を引いて、自分とは違うものとして排除するのではなく、線を飛び越えてみて、何が違うのか、解り合えるものは無いか、どうやったら分かり合えるのかということを考える経験をしてほしいです。社会に出れば、否応なしにそういうことをさせられるか、もしくはそういう人たちと関わらなくなります。大学生の間は比較的時間があって、まだチャレンジをできるチャンスだと思います。だから、自分の周りにあらかじめ線を引くのではなく、もう少しそれを飛び越えるチャレンジをしてもらいたいと思います。

 

 

感想

今回のインタビューでは、「質の高い教育とは」という非常に抽象的な質問に対してお答えいただきました。学校に行くこと自体が正しいかどうかなど、我々の既存の価値観ではなかなか問題視することのなかった観点を提示していただきました。

今回のお話の中で印象に残ったのは「集団として方向付けられる」という言葉です。これは4番の教育だけの問題ではなく、SDGsの17項目全てにおいて当てはまることだと感じました。我々は国連が発表した目標としてSDGsを認識し、世界一般の共通理解としてSDGsの達成を目指そうとしています。しかし、これは国連が作った目標に過ぎず、自分の価値観に近いものとして捉えるのは、如何なものかという考えに至りました。こう言ったことから、SDGsと宗教が似たもののように感じました。宗教の考えを否定するつもりは全くありませんが、宗教を盲信するのと同じく、SDGsを愚直に正しいものと断定するのは危険であるような気がします。教祖が作った経典だから正しいとすることと、国連が発表した目標だから正しいとすることの違いがわからなくなりました。それでもSDGsの根底に存在するものは人間にとって達成すべき共通の課題なのだと思います。SDGsを自分自身の価値観と照らし合わせて考えること、それから他の人の価値観で捉えたSDGsを受け入れること。これらを通じて目指すべきゴールの形を考えていくことが、これから必要なのではないかと感じました。

(山口真広)

 


Goal2「飢餓をゼロに」

梅津 千恵子 教授(農学研究科)

 

農学研究科の梅津千恵子教授に研究の詳細と、持続可能な社会とGoal2「飢餓をゼロに」に対する先生のお考えを伺った。

 

研究の内容

梅津先生が研究を行うサブサハラアフリカのザンビア共和国では、雨水を利用した天水農業が伝統的に行われており、人々の生活は環境変動に対し脆弱なものとなっている。このような地域では、人間社会と生態系がショックから速やかに回復すること(レジリアンス)が発展の鍵となる。では、環境変動が起きた際、食料の生産・供給・消費、人々の健康状態はどのようにショックから回復するのだろうか。梅津先生は、実際の農村世帯やコミュニティにおいて調査を行い、ショックの発生から回復までの道のりを見つめることで、環境変動が及ぼす農村世帯への影響、レジリアンスの要素や条件を明らかにした。

 

研究の目指すもの

調査を通して、非農業収入や親戚や友人等の社会的ネットワークが世帯のレジリアンスにおいて重要な役割を果たしていることが明らかとなった。食料援助等の社会制度もある程度は有効。このことを踏まえた上で持続可能な食料生産とレジリアントな農村社会の実現を目指し、「社会・生態システムが既に持つ能力やポテンシャルを高めていく」という前向きな発想のもと、世帯や地域のレジリアンスを向上させるためにはどうすればよいかを考える。そして、農村の人々の選択肢を中心に置きつつ彼らをサポートしていく。

 

研究の今後について

今回の調査では、食料消費の変化をショックからの回復の主な指標としていたが、今後はそこから一歩踏み込んで、消費の変化がもたらす栄養状態の変化にも注目したい。

 

持続可能な社会の実現のために

先進国の場合、「大量に消費することが豊かだ」という豊かさについての人々の意識をまず変えなければならない。人間や社会の価値観の変革(transformation)も持続可能な社会の実現には重要と考えられる。また、持続可能性は資源の適切な管理・消費だけでは不十分。例えば、そこに生まれてしまったがためにその人のポテンシャルを開花させることが出来ないなどといった地域間の不公平を見直すなど、人間社会のシステムの在り方からも、もっと考えていくべき。

 

Goal2について

栄養面の飢餓にも注目していくべき。タンパク質、脂肪、炭水化物以外のビタミン、鉄分、ヨウ素などの微量栄養素(micronutrient)も健康の維持には重要であり、隠れた飢餓(hidden hunger)の現実を認識することも重要である。しかし、それらのバランスを考えた支援は容易ではない。農村地域では世帯の農業生産物の種類を増やせば世帯構成員が摂取できる栄養素も多様になるのか、それとも収入を増やしてマーケットを経由して多様な食料の購入を促すほうが効果的なのか等、マーケットの発達状況など地域の実情に合わせて考えていかねばならない。

 

新入生にひとこと

自分が住む土地以外にも目を向けて、色々なところに行って多様な人々と出会って色々な文化を体感してほしい。

 

お話を伺って

環境変動を予測して事前に備えることはもちろん大切である。しかし、世界各地で予測できない環境変動や、想定外の被害が生じている。だからこそ予測を超えた時、いかに速やかに回復できるかということも持続可能な社会の重要な要素であり、求められている力だと感じた。また、持続可能な社会については「人間社会のシステムの在り方からも、もっと考えていくべき」という言葉が印象に残った。持続可能性と言えば、例えば持続可能な資源利用など、目指す形が比較的分かりやすいものに注目しがちだった。しかし、持続可能な社会の実現のためにはもっと多角的な視点で考えていくべきなのだと気づかされた。(田中千尋)

 


Goal8「働き甲斐も経済成長も」

水野 広祐 教授(東南アジア地域研究研究所

 

働き甲斐のある社会と持続的な経済成長を実現するために、我々は何を考え、どのように行動すべきなのでしょうか。インドネシアを中心に環境問題や経済発展の研究を行っている、東南アジア地域研究研究所の水野広祐教授にお話を伺ってきました。

 

【Q 水野教授の研究内容を教えてください。】

インドネシアのコンテンポラリーな問題について、土地・労働・資本といった古典派経済的なアプローチを用いて研究しています。

学生時代は京都大学の経済学部にて、東南アジアなどの発展途上国の開発発展論を主に専攻していました。その頃からインドネシアの社会や南北問題などに興味があり、友人とゼミを開いたりしていました。学部卒業後も研究を深めるためにアジア経済研究所に進学し、農村や農業を知らずにインドネシア全体のことを考えることはできないという理由から、インドネシアの農村を研究の中心にしました。

今までの研究によって、インドネシア社会には、慣習法や相互扶助が強いということや全員一致になるまで話し合いを続ける文化があることが分かっています。それらの文化を踏まえつつ、よりよい社会を創っていくにはどうすればいいのか考えています。例えば今、スマトラの泥炭問題についてのあるプロジェクトのリーダーをしているのですが、アブラヤシの生産をどう考えるかとか、それらがもたらす泥炭破壊はどうか、日本との関係はどうなるかとかを中心に見ています。

今後もインドネシア経済の研究を続けていきますが、土地・労働・資本そして環境という問題について、学問的に可能な貢献を行っていくと同時に、解決へ向けた提言やアクションリサーチを行っています。

 

【Q 水野教授の考える持続可能性とはどのようなものですか。】

インドネシア社会の発展の研究を通して見えてきたものがあって、資源がない日本は加工貿易に特化してきたのに対し、インドネシアはメダルの裏側のように資源輸出に特化してきました。

日本は加工貿易の名のもとに、資源を輸入し工業製品を輸出しました。工業製品の輸出競争力は大変強く、貿易黒字がかさみました。その過度な貿易黒字をバランスさせるため農産物を輸入し、さらに超円高にして過度な貿易黒字を減らしました。その結果、日本の農業が衰退し、地方の地場産業も衰退しています。日本には本当は豊かな農林漁業も地方の産業もそれを支える資源もあるのに、現在は利用できなくなってしまっています。

それに対してインドネシアでは、資源を輸出しているため非工業化現象が進んでいます。

この状況は2か国とも持続的とは言えません。しかし、インドネシアは日本ほど徹底的に工業に特化していないから、インドネシアの方が持続的なんですよね。なぜなら、人の消費が多く、輸入できないものは自国で作っていて、それなりに産業の発展があるからです。一方日本は、人口で見ても再生産が難しく、かなり非持続的な社会です。

サウジアラビアは資源国として有名ですが、産業が何もないでしょう。製造も農業もありません。同じようにパプアニューギニアでもオーストラリアの援助があるから外貨的には問題ないけれど、国内産業が全く育ちません。

だから、持続可能とは、国内の産業全体がバランスを取り合っている状態だと考えています。日本の自動車などが輸出ばかりした結果、農業や地方の産業が犠牲になっているのです。一部の大資本の産業は輸出、農業や地方の雑貨産業は輸入という偏重の結果、農業も地方経済もさびれています。それらの産業の衰退の結果、地方に職が少なく人口減少を促進しています。このようなアンバランスの結果、日本の農業や地方経済は今や危機的です。このようなアンバランスを是正するためには、工業も農業もその他の産業も、輸出もするが輸入もする、というバランスを回復すべきです。農業も工業も生産して、輸出して、輸入もする。そうして、農業は農業で、工業は工業で輸出と輸入が釣り合い、過度な円高を是正することにより持続可能性が見えてくるのではないでしょうか。日本の農業も本当は競争力があるのですよ。世界中にある日本食レストランに日本のコメを輸出するなどの方法で農業を発展させ農村に人々がもどってくるようにすべきです。

 

【Q 8番目のゴール「働きがいも、経済成長も」についての考えを教えてください。】

経済成長を考えるなら、持続的なことを大きな視点で考えていかないといけません。日本でいうと、この先若者がどんどん減っていくのに、どうやってこれからの社会を維持していくのでしょうか。成長の在り方自体を考えていく必要があるかと思います。

また、インドネシアでは、民族が様々で考え方がばらばらだから、日本ほど一つのシステムに統一していくことができません。そういったことも考慮しながら労働や成長について再考していく必要があるのではないでしょうか。

 

【新入生に一言お願いします。】

京都大学に来たからには、大きなことを考えないといけません。京大に来たってことは、世界を考える、活躍する入り口に来たということです。

英語がうまくなるのは当たり前だし、英語以外の言語も習得してみてください。グローバリゼーションの世の中、外国の人々と世界のことを考え議論ができるように、京大の学生も発展していくべきだと思います。

京大に入ったことは良かったね、と思えばいいと思います。でも、それが目標で終わってしまうのではなくて、入学できたのは一つのチャンスだと思って、次のステップを考えないといけません。外国には賢い人がごまんといるから、国際社会で世界の人々と同レベルの議論ができるような学生になってください。皆さんが日本の企業に勤めたとしても、同期で入ってくる新入社員は、東大、早稲田慶応、一橋に東工大卒等です。それにシンガポール大とか香港大学・ソウル大さらに清華大学卒も入っていることでしょう。会社に入るや、それらの新入社員との間で熾烈な競争が始まります。その競争に打ち勝つためには(少なくとも脱落しないためには、あるいは「競争」などとは次元の異なった生き方をするためには)、皆さんの知力、体力、語学力、構想力などなどが頼りです。せっかく京大卒なのだから東大、早稲田慶応、一橋卒のようなおりこうさんの常識人とは違ったことを言いましょう。本当な彼ら彼女の中にも面白い人間がいるのですが、それらの人と共鳴するためには皆さんが面白い人間になる必要があります。知にたけ義に奮い立ち、弱い立場の人の気持ちがわかり、、、そして世界の流れを見通し、、。

英語力は入試合格時が最高で後は下がるばかり、、、などとういう情けないことにならないでくださいね。

京大はたくさんチャンスを与えてくれるから、これからが始まりだと思って、あらゆる可能性に対して頑張ってやってみてください。

 

《インタビューを行って》

「働き甲斐と経済成長」というテーマで取材を行いましたが、予想とは全く異なるお答えをいただきました。私はてっきり、途上国の経済を持続させるためには先進国の配慮が必要だとか、そのような話になると思っていました。それが、途上国(今回はインドネシアに限った話ではありますが)よりも日本の方が持続的な経済成長は危ぶまれているという見方があるとは、考えてもいませんでした。

今回のインタビューを通して、経済成長とは何なのか、常識と思っているものを根幹からもう一度考え直す貴重な機会をいただくことができました。日本の軸で世界を見ると、その国々の事情や文化、考え方を見落としてしまう恐れがあります。働き甲斐も経済成長も、答えが一つあるわけではなく、それぞれの地域が自分たちの持続性を考えていかなければいけないと思いました。

貴重な時間をインタビューのために割いていただき、また熱く語ってくださった水野教授に感謝申し上げます。(高田咲)


Goal5「ジェンダー平等を実現しよう」

岡 真理 教授(人間・環境学研究科)

 

SDGsのGoal5「ジェンダーの平等を達成しすべての女性と女児のエンパワーメントを図る」に関連して、人間・環境学研究科の岡真理教授にお話を伺ってきた。

 

〇【研究分野】世界を統べる語りとは別の語り、を提示すること

「この世界を統べているのとは別の、「語り」「知」もあるのだということを皆さんに提示すること。それが私の役目かな。」

岡教授は、近代における西洋中心的な「知」の在り方を、問い、批判的に検討し、そうした批判的「知」を、私たちに新たな選択肢として提示する。現代アラブ文学を専門とし、具体的にはパレスチナに焦点をあてるが、それは単に占領されたパレスチナの文学や歴史をたどることではない。教授自身は「思想としてのパレスチナ問題」と呼び、肝所は「難民」を近代の思想問題として捉えなおすところにある。文学から広がる問いは、西洋と西洋ならざる世界の間には本質的差があるとするような思想や第三世界のフェミニズム文学に対する第一世界側の恣意的理解への批判的考察、といった深い思想の世界へと開かれている。植民地主義の歴史への鋭い洞察と、文学―特に小説―を通じて聞こえてくる抑圧された人々の声に耳を傾けることに普遍的思想課題は始まる。

 

〇【Goal5ジェンダーの平等の達成について】ジェンダーの平等だけを考えることができるのは、特権的立場にある人々

「ジェンダーの平等だけを考えられる人というのは、特権的立場にある人。つまり、一般的にフェミニズムと言えば、西洋の中産階級以上の人々に端を発したものであって、家父長制の抑圧に対する抵抗のみを指す。けれど、第三世界フェミニズムの抵抗する先は、家父長制の抑圧だけでなくて、植民地主義による抑圧も含めた、二重の抑圧。そうすると、実は第三世界フェミニズムのほうが、普遍的なフェミニズムではないかと思うの。」

第三世界のフェミニズムは、西洋の覇権の下で構造化され、周辺化された、第三世界において、さらにその中で構造化されたジェンダー格差、に対する抵抗である。教授は、「第三世界フェミニズムの文学には、植民主義に対する抵抗が顕著に表れている。」と言う。

日本に住む私たちは気づいていないかもしれないが、二重の構造化に対する抵抗は、第三世界フェミニズムのスタンダードなのだ。だが、これは第三世界においてのみ言えることではなく、日本においても同じことが言えるのではないだろうか。格差や差別で構造化された中にジェンダーの問題が存在するのは、どこの地でも共通である。

 

 

〇【Sustainable Development Goalsについてどう思いますか?】誰のために何が持続可能なのか

「まず、それらが誰のために何が持続可能(Sustainable)で、誰のためのどんな開発(Development)なのかを意識すべき。」

知らず知らずのうちに周辺化してしまうものがある。環境を持続可能なものにすると言った場合、それは、今ある環境と協調して営みを続けることであるのかもしれない。しかし、根本的に持続されるべきでない状況にある人々にとって、持続可能とは何だろうか。

「例えば、占領下のパレスチナの人々は、占領下において持続可能(Sustainable)な生活を営むことを望んではいない。」

教授がこう主張する背景には、イスラエル占領下のパレスチナ、ガザにおいて、そこでの生活を持続可能にするということは、占領の継続を可能にしてしまうという状況があるだろう。また、一般的に言われるいわゆる「先進国」に追いつくことが開発(Development)かというとそうではなく、そうした「開発」によって失われるものもあるのではないか。

 

〇【新入生に一言】

「謦咳に接する」という表現があります。「謦」は「声」、「咳」は「せき」のこと。吐息が触れるほど間近で、相手の声を聴く、肉声に直接、触れるという「体験」のことです。新入生のみなさん、大学在籍中に、ぜひ、可能な限りたくさんの「謦咳」に接してください。

インターネットの発達によって、私たちは居ながらにして、多様かつたくさんの情報を手に入れることが可能になりました。クリックひとつで、調べ物もできます。パソコンやスマホで映画を鑑賞したり、講演を視聴することもできます。だとしたら、わざわざ映画館や講演会会場に足を運ぶ必要もありません。でも、そうした便利さの陰で、「謦咳に接する」という体験をする機会がどんどん失われてはいないでしょうか。スマホやパソコンで得られるのは、あくまでも「情報」です。情報は、いくら累積しても「体験」にはなりません。一方、謦咳に接するとは、誰かと時間と場所を共有しながら、その肉声に耳を澄ますことです。そこで得られるのは、「情報」に還元することのできない、謦咳に接することによってしか得ることのできない何か、です。「まなび」は、その体験から生まれます。

大学に入って、みなさんが生きる世界は、知的にも物理的にも、これまでとは比較にならないくらい広がります。その広大な世界で、可能な限り、たくさんの人と出会い、たくさんの「謦咳」に接し、たくさんの「体験」をして、たくさんのことを学んでください。接した他者の謦咳の豊かさが、みなさんのこれからの人生を豊かなものにする土壌になるでしょう。

岡 真理

 

(西道奎)


Goal15「陸の豊かさも守ろう」

幸島 司郎 教授(野生動物研究センター

地球で最大の生物多様性地域と言われるアマゾンは、現在、森林伐採などによって生態系が脅かされています。この問題に取り組むためにアマゾンにフィールドミュージアムを作る取り組みを行っている京都大学野生動物研究センターの幸島司郎教授にお話を伺いました。

 

理想の動物園を作りたい

–フィールドミュージアムを作ったきっかけは何ですか?

私の研究室では主に絶滅が危惧されている大型野生動物の生態や行動を研究しています。長年アマゾンやボルネオなどで野生動物のフィールド調査を行っていると、密猟で親を殺された野生動物の子供を保護して育て、野生に返す活動(野生復帰事業)に関わるようになることが多いです。保護した子を育てて、野性に返す活動は長い間行われてきましたが、人間が育てた子供をそのまま野生環境に返しても、自然の食物を利用できなかったりして大半が生きていけません。野生に返す前に、野生環境に適応するための訓練を行なう半飼育・半野生環境をつくることが必要なことを感じていました。このような施設は、研究や保全や教育に役立つばかりでなく、エコツーリズムを通じて地域経済にも貢献できます。

また、研究や保全や教育に役立ち、動物の福祉も考えた理想の動物園・水族館を作ることは、野生動物研究センターの重要なミッションの一つでもありました。ゾウやイルカなどの大型野生動物を研究するには、動物園、水族館との連携が欠かせないからです。そして、そのような理想の動物園・水族館を最も必要としているのは、アマゾンやボルネオに住む人々だということに気がつきました。彼らには動物園も水族館も近くにないため、現状では、密猟されて市場に並んだ肉としてしか野生動物を見る機会がないのです。そこで、地域の人々に周辺の貴重な自然環境の価値を知ってもらう場所にもなると考え、アマゾン本来の自然環境を活かして動植物を紹介できる理想の動物園・水族館としてフィールドミュージアムを作ることにしました。

 

研究から環境教育まで

–アマゾンのフィールドミュージアムはどのような場所で、どのような取り組みを行っているのですか?

「科学の森」と呼ばれる、マナウス市内に残された小さな森と、その郊外にある国立アマゾン研究所の保護林にあるフィールドステーションの2カ所を主な拠点としています。「科学の森」は工業化が進むアマゾンの大都市の中に残された貴重な森で、環境教育に利用されており、サルやナマケモノなどの野生動物を近くから観察することができます。フィールドステーションがある保護林は、マナウスから船や車で3−4時間かかる場所にある原生林で、熱帯雨林に生息する様々な貴重な動植物を観察することができます。昨年5月に行ったフィールドステーションの開所式には山極総長も来られたんですよ。フィールドミュージアム では、野生のフィールドそのものを楽しめるような施設や、野生動物を飼育環境、半野生環境、野生環境で観察できる施設を整備するようにしています。半野生環境では野生動物を野生に近い環境ですぐ近くから観察できます。フィールドステーションがある保護林には、40−50mの高さから熱帯雨林の上層部に生息する動植物を観察できるタワーもあります。また、「科学の森」には「科学の家」という研究成果を展示する施設などもあり、研究だけでなく、エコツーリズムや環境教育のための場にもなっています。プロジェクトでは、フィールドミュージアムの施設を利用したアマゾンマナティーの野生復帰事業も3年前から行っており、既に19頭のマナティーの野生復帰に成功しています。マナティーの放流イベントでは、地元の人々、特に子供達を対象として、マナティー保全に関する環境教育も実施しているのですが、毎年驚くほどたくさんの人々が参加してくれています。

 

地域に根ざした場所へ

–フィールドミュージアムの将来像を教えて下さい。

フィールドミュージアムの整備は、現在SATREPSという5年間のプロジェクトで行われていますが、我々はプロジェクト後もフィールドミュージアムが地域の人々によって自力で運営されていくことを目指しています。そのためには現地の住民や野生動物の専門家が協力してフィールドミュージアムの運営ができる体制を整える必要があります。また、現地住民がフィールドミュージアム の施設を利用したエコツアーや環境教育プログラムを企画・実施することで地域経済を活性化することも必要です。エコツアーでは、先住民に伝わる知恵も活かしてこうと考えています。例えば野生動物の密猟を行っていた人たちは、見つけるのが非常に難しい野生のマナティーを見つける知恵と知識をもっています。しかし、その知識は皮肉にも、密猟が禁止されることでどんどん失われてきています。野生動物を観察するエコツアーの専門家ガイドとして働いてもらうことで、その知識が失われることなく伝えられ、元密猟者がガイドとして生活できるようになることを願っています。

 

環境教育で意識改革

–SDGs(持続可能な開発目標)の、特にGoal15(陸の生態系を守ろう)を達成するためには、何が必要だと思われますか?

まずは、そこに住んでいる人々に、身の回りにある自然の価値や素晴らしさを理解してもらうことが大切だと思います。フィールドミュージアムのある大都会マナウスに住む人々も、その周辺コミュニティーに住むアマゾンの先住民の人々も、その大部分は身の回りにあるアマゾンの自然環境がどれほど貴重で大切なものかを理解していません。そのため、フィールドミュージアムを利用して、彼らの理解を深めるための教育を行う必要があります。守る意義や守ればどんな良いことがあるかを理解することが森を守る行動に繋がってゆきます。森林伐採や動物の捕獲を一方的に禁止するだけでは効果は少なく、密猟はなくなりません。自然を保護することでたくさんの観光客がこの地を訪れ、それが収入にも繋がることを実感してもらうことが、問題解決に必要だと思います。私たちは、SDGsが決まる前からこの活動を行っているので、最近プロジェクトの意義をSDGsの項目にあてはめて説明せよと言われることが多くて、戸惑うことが良くあります。

 

具体的な課題に取り組む

–SDGs(持続可能な開発目標)や持続可能な社会についてどう考えますか?

SDGsって、ほんとはあまり好きじゃないんですよね。国連で決まったから、役所の人はそれに合わせてやらないといけないでしょうが、私たちは目の前のマナティーの子をどうしようかなどの具体的なことからしか考えられません。ただ、人類の共通の目的を明確にしたという点で、大切なことだとはわかっています。私たちの取り組みはSDGsの15番に関連しているだけでなく他にも色々な要素が入っています。ブラジルのマナウスの子供たちに自然の価値を教える教育を提供するという面からは、SDGsの4番にも関わってきますし、女性の権利や衛生などもこの取り組みに関わっています。

 

自分がやりたいことに挑戦しよう!

–新入生に何か一言お願いします!

私が京大に入学したのは、自分が見たことのない世界を見てみたい!という夢を持っていたからです。社会のために貢献したい、人の役に立ちたいと思っている人もいるとは思いますが、まずは自分がハッピーになって、そのハッピーを他の人にも分けてあげたいと思えるくらいにならないと、本当に良いものを社会に届けることはできません。まずは自分がやりたいこと、やってみたいことに全力で挑戦することがおすすめですね。

 

インタビューをして

直接的に野生動物を保護するだけでなく、環境教育を行うことで生物多様性を保全するという取り組みはとても魅力的で、興味深かったです。先生の動物園にとって一番必要なのは、現地の人々だという言葉が印象に残っています。この取り組みによって現地住民の環境意識が高まり、ますます多くの人が生物多様性を守ろうと思うようになることが大切だと感じました。(奥野真木保)


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