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【開催報告】9/28(土) 第3弾 EXPO2025に向けた海のSDGs会議 - SDGs KYOTO TIMES
京都から世界にSDGsを発信する情報プラットフォーム《SDGs KYOTO TIMES》。1,300年の歴史を持つ京都は、町や暮らしを持続させる知恵の宝庫です。各所で始まっている「次の千年に向けた京都のSDGsの取り組み」を発信しています。
2024.10.10
9月28日(土)に「第3弾 海のSDGs会議」を京都里山SDGsラボ「ことす」(京都市京北)及びオンラインで実施し、ことすには約50名、オンラインでは約30名の方にご参加いただきました。
初参加の方も多かったですが、第1~2弾を通じて進展したり、コラボが生まれたりしたプロジェクトもあり、ネットワーキングの場としても、大いに盛り上がりました。
まとめのSDGs問答の録画へもこちらから:https://eco.kyoto-u.ac.jp/sdgs/kyoto-times/post/5683/
アップサイクルブランドoctangleさんとのコラボ作品プロジェクトも開始!
各セッションマネージャーからのご報告です。
1)食:李胜楠(総合地球環境学研究所・研究推進員)
◆プログラム概要
気候変動や環境汚染といった深刻な環境問題が進行する中、食材資源の確保は国際的な急務となっています。特に、海に囲まれた日本では、水産資源の持続可能な利用は重要な課題です。地球温暖化による海水温上昇や乱獲、IUU漁業(違法(Illegal)・無報告(Unreported)・無規制(Unregulated))が原因で枯渇する魚介類が増えています。しかし、適切な管理漁業によって激減した魚の資源も回復することが知られています。水産資源を利用する人々の文化や認識が変化すれば資源の活用方法も変わり、ブルーシーフード(地球にやさしいサステナブルなシーフード)を生み出すことに繋がります。また消費者は、食品製造業に携わる企業の持続可能な取り組みや生産者に思いを馳せて水産資源に自分の生活を合わせていく(生産者と消費者の壁をなくす)ことが大切です。
本セッションは、持続可能な水産資源利用の現状と課題を紹介し、それに対する具体的な行動方針を学ぶことができます。また、サステナブルな食材資源を実現するため、食品企業のためのサステナブル経営に関する現状や自然資本関連課題に関わる企業行動事例も議論します。
キーワード:ブルーシーフードガイド、水産資源、食品企業、現代漁業
◆当日の報告
井植さんからのプレゼンテーションでは、持続可能な水産資源を確保するためのサステナブルな活動について紹介されました。特に、地球に優しい持続可能なシーフードの選択を促進するブルーシーフードガイドに焦点を当て、消費者が楽しみながら持続可能な選択を行えるよう支援する内容が提供されました。このガイドは、持続可能な水産物を優先的に消費することにより、水産業全体の支援と枯渇した水産資源の回復を促進するという考えに基づいています。
水谷さんからは、京都府版ブルーシーフードガイドの策定に至るまでの具体的な事例として、京都の海で見られる「ジャマモク」と呼ばれるアカモク海草の話がありました。この海草はかつては漁師にとって邪魔な存在でしたが、近年では栄養価の高い新たな食材として注目されています。このような新資源の発見は、水産資源を豊かにするための重要な事例です。また、京都の漁業においては、京都府農林水産部と協力し、海の資源管理、密漁監視、環境保全、海難救助などの取り組みが行われていることも紹介されました。
なお、この日のランチでは、アカモクの味噌汁が提供されました。
2)ごみ:菊岡永里子(関西大学4回生)
◆プログラム概要
河川や海洋といった水環境におけるごみ問題への取り組みには、人々の連携が不可欠です。本セッションでは、水環境での汚染対策に取り組んでいる専門家の方々に、世界や日本における河川・海洋汚染対策や国際的な連携の具体的な事例をご紹介いただきます。さらに、私たちが何をすべきか、そして今後どのように協力して行動していけるかについて、議論を深めていきます。
◆当日の報告
まず松尾様からは世界でのプラスチック汚染の現状や、日本政府が支援しているメコン川における国際環境計画によるプロジェクトについての情報が共有されました。続いて、山本先生からは海洋プラスチックごみ問題に対する科学的知見の強化を目的とした事例紹介がありました。さらに、UNIDOとの共同プロジェクトとして、プラスチック代替品の原料となる農業廃棄物の賦残量調査の事例や、ごみ問題に取り組む人材育成のためのインターンシップ制度による学生のキャリアパス形成についてもお話がありました。伊藤先生からは、荒川を事例にした河川清掃の構造分析、特に流域連携のスキームについての報告があり、実原様からは「ごみゼロ大作戦 × ○○ at びわ湖」の事例を共有していただきました。最後に、光本様からはごみゼロアプリの機能や目的についての話題提供があり、アプリを活用したごみ問題対策の可能性についても言及がありました。
深掘りされたテーマとして、海外でプラスチック汚染対策に活用されているドローンやAI技術、そして再生プラスチックの経済性が挙げられました。また、「プラスチックがなかった時代に戻れるのか」という問いに対しては、プラスチックは生活の利便性を高める素材であり、そのためにいかに上手に利用していくかが今後の鍵であるとの意見が出されました。最後に、参加者同士の交流を通じて人々の連携を深めることが今後の水環境におけるごみ問題対策の進展に繋がるという期待が語られました。
※参考:9/29のEXPO KYOTO企画「ごみゼロの輪を広げる」セッションまとめ
光本様から、万博に向けたごみゼロアプリのネットワーク拡大をテーマに、アプリの基本情報や今後実装予定の新機能、また乗り越えるべき課題について話題提供をしていただきました。無関心層にどうアプローチするか、またグローバル展開に向けた海外の倫理観の再確認、アプリ機能の柔軟化などが今後の指標として共有され、議論されました。
環境問題に対して興味を持つ層だけでなく、無関心な大多数に対してどう働きかけるかが重要であるという指摘がなされ、これはアプリの開発のみならず、環境問題全般に関わる人々が直面する課題でもあります。今回のセッションは、その解決に向けた一つの糸口となるような時間となりました。
3)生物多様性:許斐有希(いきもの倶楽部KONOMI)
◆プログラム概要
我々が今後も食材などの自然資源を得るためには、海を始めとする水系の生物多様性を維持することは必要不可欠だと考えられます。そのためには様々な立場や環境でその場の課題に応じた取り組みが必要です。
サンゴ礁のような生物多様性が豊かで保全が必要とされる現場では、負荷となっているものを正しく計り、それらの低減を目指すこと。次世代の子ども達を始めとする地域の人々が、育った地域の環境や文化に関心をもつことが肝心です。
また、水族館といった自然から少しはなれた場所で行える取り組みとしては、栽培(養殖)があります。そこでは単純な栽培・養殖技術の話だけではなく、どれだけの人口を支えていく必要があるのかといった社会的要素も考慮する必要があります。
上記のような、人間の生活が持続可能なものであるために無視できない水系の生物多様性の課題について、本セッションで議論を交わします。
キーワード:栽培、人口、陸域負荷、石西礁湖、栄養塩、学校での稲作体験
◆当日の報告
新城先生からは、サンゴ礁の劣化についてローカルな原因を調査し、判明した結果(今回では底質から溶出する蓄積型リン濃度)を科学的エビデンスとして地域住民に提示することでより問題解決に現実味をもって取り組んでもらういうこと、また稲作体験を通じて生物多様性や自然と人との関わりを子ども達に感じてもらう取り組みについて話題提供を頂きました。
池谷さんからは、現行の水産資源の養殖に関して持続可能なものであるためには、自然の生物多様性が豊であり続ける必要があるということと、また人口が減ってきている今だからこそ開発圧力が低下しているとも捉えることができ、昔は河川の氾濫原であったエリアをもとの氾濫原に戻すことで豊さが復活する生物多様性があるという話題提供を頂きました。
お二方から頂いた話題の中で共通する点として、養殖業や畜産業など、自然にはない高密度な状態で人間が特定の生物を集めた場所は、環境へのダメージが大きいという点がありました。また、いずれも既に発生している問題に対する直接的な解決法の話ではなく、どうしてその問題が発生しているのか、どうすればその問題が発生しないで済むのか、というより根源的な部分にアプローチをされており、各地で発生する諸問題を解決していくうえでとても参考になるスキームだと考えられました。
新城先生および池谷さんからのお話に加え、観覧者の方を交えた議論もすることができ、有意義な時間となりました。
4)技術イノベーション:永田陽光(京都大学2回生)
◆プログラム概要
第3弾の今回は、海に関する技術の研究開発をされている方々に、海洋生態系未来予測・駿河湾海洋DXやカキ殻を用いた地域循環環境保全型事業といった事例を紹介して頂き、引き続き「技術の活用による海の持続可能性」について議論します。特に、前回までの課題として残っている技術開発から社会実装までの時間差や、技術の実用化における経済的要因検討の必要性についてさらに深堀りして考えていきます。
◆当日の報告
前田様からは、前提として変わりゆく環境への適応のためにシミュレーションを用いて地球環境の未来を予測する技術の確立を目指されていること、また、その確立には計測・モデル化が必要であることをお話頂きました。その後、モデル化技術の具体的事例として、車エビ養殖排水によって成長促進されるアーサ(アオサ)の生態系予測の研究を、海洋における情報学の活用事例として、駿河湾における海洋DX先端拠点化プロジェクトをご紹介頂きました。
小原様からは、地域循環環境保全型事業である「瀬戸内かきがらアグリ」という取り組みについてご紹介頂きました。処理方法が問題となっていた牡蠣殻を加工し、飼料や土壌改良剤として用いることで、「里海米」の生産などの新たな価値を創出するだけでなく、土中の栄養分が海に戻り海洋環境の改善にもつながるという好循環が成り立っていることをお話頂きました。お二方には「海洋に関する技術&イノベーション」という共通テーマで話題提供をして頂きましたが、その切り口は大きく異なっており、一口に技術&イノベーションといっても、アプローチの仕方は非常に多様であるということを実感しました。一方で、方法によらず、実際の問題に直接アプローチするという点では共通しており、今後の海洋における技術&イノベーションの重要性を強く感じました。コメンテーターとしてご参加頂いた山本先生にも、たくさんのコメント・ご質問を頂き、非常に濃い議論となりました。
5)教育:中井海碧(東京外国語大学修士1回生)
◆プログラム概要
四方を海に囲まれ、水資源にも恵まれる日本が持続的に発展していくためには、国民一人ひとりが海や川、そこに棲む生物についての理解・関心を深めることが求められます。そのためには、学校教育や社会教育としての環境教育が欠かせません。本セッションでは、環境教育に携わる方々に、実際にどのような環境教育が実施されているのかお話を伺い、豊かな自然と人類の共生を実現するためには今後どのような環境教育が必要となるのかを検討します。
◆当日の報告
教育セッションでは3名の方々から環境教育の具体的な事例を紹介していただきました。
いきもの倶楽部KONOMIの許斐さんからは自然観察会や生物教室など、学校教育では十分に実施できない実際のフィールドで生物と触れ合う学びについて話題提供していただきました。許斐さんの問題意識としてあった「今の子供たちは生物の基本を知らない」という部分について原因と解決策が問われ、原因としては子供の両親が生き物を知らないこと、動物園・水族館にいる生き物や、生き物系YouTuberが取りあげる生き物が海外の生き物であること、解決策としては自然観察会で日本の生き物に触れること、両親と子供の間に「生物オタク」が入ること、日本の生き物を知る人がその魅力をアピールしていくことなどが挙げられました。
海洋高校の長岡先生からは漂流ごみの科学的な調査やマイクロプラスチック調査など、学校での海洋ごみ問題に関する生徒たちの取り組みについて話題提供していただきました。取り組みがかなり実践的だったためにどのような安全配慮がなされているのか問われ、小学生とつながる海ごみ教室では危険な生物に触れたりしないように小学生3人に対して高校生1人がつくようにするなど、アクティブな学びと安全性を両立させるための注意を怠らない姿勢が窺えました。また、ごみ回収後の行方についての議論から広くごみについての話題となり、自分ごととしてみんなが気持ちよく過ごしていける社会作りの意識を持つこと、そもそも、ごみの発生源となる町からくるごみを減らすこと、ごみ拾いアプリの普及を目指すことなどが意見として挙げられました。
一般社団法人SWiTCH代表の佐座さんからは都市部の人にマイクロプラスチックや生物濃縮の問題を自分ごととして捉えてもらうために、プランクトンをアートとして視覚化するという渋谷でおこなわれた取り組みについて話題提供していただきました。さらに、日本ではSDGsについて学んでいる人でも自らが環境活動を牽引する人材になるという意識がないという問題意識に基づき、SWiTCHが目標の一つとして掲げる「次世代リーダー育成」達成のための施策として、国連の環境教材の日本語訳、「サステナKIDSアワード」や「給食食べ残しゼロキャンペーン」などが紹介されました。サステナブル人材の育成のためには、大人になってもからも継続的に環境問題に取り組んでいく内発的な動機が不可欠であるといった、施策の根底にある考えを伺うことができました。
以上のように、教育セッションでは具体的な取り組み事例を知ることはもちろん、自然との共生のために今後どのような環境教育が必要となるのか検討することを目標として対話をしました。その結果、専門性の高い学校では非常に実践的な海洋教育が行われており、社会教育として学校教育では十分に実現できないアクティブな学びが展開されていることが分かりました。それぞれの教育は、それを主催する団体と学術機関や企業、地域の人々との「つながり」により実現されるものであり、「つながり」を大切にしていくことで今後さらに環境教育の輪が広がっていくことが期待されます。また、サステナブルな人材の育成には環境教育による学びを「自分ごと」として捉えてもらうことが不可欠であり、今後の環境教育には学びの内容を身近に感じてもらうための工夫が求められます。具体的な教育方法の発案や大人に向けた環境教育など、まだまだ議論すべきトピックを残しつつ、環境教育の実際と今後について意義のある議論ができました。
<参考>
2023年11月第一弾プログラム:https://eco.kyoto-u.ac.jp/sdgs/kyoto-times/4662/
第一回の後のSDGs問答:https://eco.kyoto-u.ac.jp/sdgs/kyoto-times/post/4701/
2023年11月第一弾開催報告:https://eco.kyoto-u.ac.jp/sdgs/kyoto-times/4839/
2024年3月第二弾プログラム:https://eco.kyoto-u.ac.jp/sdgs/kyoto-times/5070/
2024年3月第二弾開催報告:https://eco.kyoto-u.ac.jp/sdgs/kyoto-times/5520/
2024年9月第三弾プログラム:https://eco.kyoto-u.ac.jp/sdgs/kyoto-times/5630/
京都から世界にSDGsを発信する情報プラットフォーム《SDGs KYOTO TIMES》。1,300年の歴史を持つ京都は、町や暮らしを持続させる知恵の宝庫です。各所で始まっている「次の千年に向けた京都のSDGsの取り組み」を発信しています。