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【5】世界を統べる語りとは別の語り(岡 真理 教授)

2019.04.07

学び 2019年新入生企画

Goal5「ジェンダー平等を実現しよう」

岡 真理 教授(人間・環境学研究科)

 

SDGsのGoal5「ジェンダーの平等を達成しすべての女性と女児のエンパワーメントを図る」に関連して、人間・環境学研究科の岡真理教授にお話を伺ってきた。

 

〇【研究分野】世界を統べる語りとは別の語り、を提示すること

「この世界を統べているのとは別の、「語り」「知」もあるのだということを皆さんに提示すること。それが私の役目かな。」

岡教授は、近代における西洋中心的な「知」の在り方を、問い、批判的に検討し、そうした批判的「知」を、私たちに新たな選択肢として提示する。現代アラブ文学を専門とし、具体的にはパレスチナに焦点をあてるが、それは単に占領されたパレスチナの文学や歴史をたどることではない。教授自身は「思想としてのパレスチナ問題」と呼び、肝所は「難民」を近代の思想問題として捉えなおすところにある。文学から広がる問いは、西洋と西洋ならざる世界の間には本質的差があるとするような思想や第三世界のフェミニズム文学に対する第一世界側の恣意的理解への批判的考察、といった深い思想の世界へと開かれている。植民地主義の歴史への鋭い洞察と、文学―特に小説―を通じて聞こえてくる抑圧された人々の声に耳を傾けることに普遍的思想課題は始まる。

 

〇【Goal5ジェンダーの平等の達成について】ジェンダーの平等だけを考えることができるのは、特権的立場にある人々

「ジェンダーの平等だけを考えられる人というのは、特権的立場にある人。つまり、一般的にフェミニズムと言えば、西洋の中産階級以上の人々に端を発したものであって、家父長制の抑圧に対する抵抗のみを指す。けれど、第三世界フェミニズムの抵抗する先は、家父長制の抑圧だけでなくて、植民地主義による抑圧も含めた、二重の抑圧。そうすると、実は第三世界フェミニズムのほうが、普遍的なフェミニズムではないかと思うの。」

第三世界のフェミニズムは、西洋の覇権の下で構造化され、周辺化された、第三世界において、さらにその中で構造化されたジェンダー格差、に対する抵抗である。教授は、「第三世界フェミニズムの文学には、植民主義に対する抵抗が顕著に表れている。」と言う。

日本に住む私たちは気づいていないかもしれないが、二重の構造化に対する抵抗は、第三世界フェミニズムのスタンダードなのだ。だが、これは第三世界においてのみ言えることではなく、日本においても同じことが言えるのではないだろうか。格差や差別で構造化された中にジェンダーの問題が存在するのは、どこの地でも共通である。

 

 

〇【Sustainable Development Goalsについてどう思いますか?】誰のために何が持続可能なのか

「まず、それらが誰のために何が持続可能(Sustainable)で、誰のためのどんな開発(Development)なのかを意識すべき。」

知らず知らずのうちに周辺化してしまうものがある。環境を持続可能なものにすると言った場合、それは、今ある環境と協調して営みを続けることであるのかもしれない。しかし、根本的に持続されるべきでない状況にある人々にとって、持続可能とは何だろうか。

「例えば、占領下のパレスチナの人々は、占領下において持続可能(Sustainable)な生活を営むことを望んではいない。」

教授がこう主張する背景には、イスラエル占領下のパレスチナ、ガザにおいて、そこでの生活を持続可能にするということは、占領の継続を可能にしてしまうという状況があるだろう。また、一般的に言われるいわゆる「先進国」に追いつくことが開発(Development)かというとそうではなく、そうした「開発」によって失われるものもあるのではないか。

 

〇【新入生に一言】

「謦咳に接する」という表現があります。「謦」は「声」、「咳」は「せき」のこと。吐息が触れるほど間近で、相手の声を聴く、肉声に直接、触れるという「体験」のことです。新入生のみなさん、大学在籍中に、ぜひ、可能な限りたくさんの「謦咳」に接してください。

インターネットの発達によって、私たちは居ながらにして、多様かつたくさんの情報を手に入れることが可能になりました。クリックひとつで、調べ物もできます。パソコンやスマホで映画を鑑賞したり、講演を視聴することもできます。だとしたら、わざわざ映画館や講演会会場に足を運ぶ必要もありません。でも、そうした便利さの陰で、「謦咳に接する」という体験をする機会がどんどん失われてはいないでしょうか。スマホやパソコンで得られるのは、あくまでも「情報」です。情報は、いくら累積しても「体験」にはなりません。一方、謦咳に接するとは、誰かと時間と場所を共有しながら、その肉声に耳を澄ますことです。そこで得られるのは、「情報」に還元することのできない、謦咳に接することによってしか得ることのできない何か、です。「まなび」は、その体験から生まれます。

大学に入って、みなさんが生きる世界は、知的にも物理的にも、これまでとは比較にならないくらい広がります。その広大な世界で、可能な限り、たくさんの人と出会い、たくさんの「謦咳」に接し、たくさんの「体験」をして、たくさんのことを学んでください。接した他者の謦咳の豊かさが、みなさんのこれからの人生を豊かなものにする土壌になるでしょう。

岡 真理

 

(西道奎)

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