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福岡県立三池工業高校との取り組み「文具からプラスチックを削減するには?!」

2020.10.14

中高生 プラ SDGs

エコ~るど京大や、京都超SDGsコンソーシアム、浅利美鈴研究室では、プラスチックとの持続可能な関係性構築に向けた各種取り組みを推進しています。その一環として、高校との連携事例をご紹介します。

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(第3稿)FRaU活動「文具からプラスチックを削減するには?!」福岡県立三池工業高校の取り組み

 

 

京都大学と連携したオンライン授業

「文具からプラスチックを削減するには?!」

福岡県立三池工業高校の取り組み

 

向 雅生、梶原 拓也

 福岡県立三池工業高等学校

 

1.授業動機とテーマ設定

福岡県立三池工業高等学校は、県南の大牟田市に在り、明治41年に三井家が経営する三池炭鉱と付近工場の実習場として、わが国工業界の「志士」を育成する目的で創設した「三井工業学校」に始まる。大正2年には、中国建国の志である孫文が視察した由緒ある学校である。大牟田市は、「明治日本の産業革命遺産」として登録(2015年)された世界遺産(図1)を有し、三池炭鉱と共に発展した工業都市としてESD(Education for Sustainable Development)を推進し、環境問題に対する意識が高い街である(図2)。

また、近年の海洋マイクロプラスチック問題やコンビニエンスストアなどでのプラスチックバック有料化により、生徒たちにとって、プラスチックに関する環境問題が身近なものとなりつつある。

そこで、今回、京都大学とFRaU 共創企画である「みんなのプラ・イド革命 超SDGsリーダー 500人の大編集会議」と連動して、「文具からプラスチックを削減するには?!」というテーマで環境探究授業を行うことにした。その際、京都大学と連携したオンライン授業を行うことで、より踏み込んだESD(持続可能な開発のための教育)を目指した。

 

図1 三池炭鉱宮原坑(世界遺産) 図2 大牟田市内の交差点

 

2.授業の単元計画

現在、本校の1学年対象(4クラス、142名)に、「科学と人間生活」の教科を担当している。その「第2章 物質の化学」「1節 材料とその再利用」において、プラスチックについて学習する(図3)。その発展的な授業として環境探究授業を行うことにし、表1のように単元計画を立てた。また、「科学と人間生活」を履修しない学校に対しても本授業が参考にできるように、2022年4月1日に施行される新しい学習指導要領において、新設が決定されている教科「理数探究」、「理数探究基礎」のモデル授業となるように工夫した。

図3 「科学と人間生活」の教科書

(実教出版)

 

 

 

1「科学と人間生活」における授業の単元計画

時限 単元名 学習内容
1 プラスチックについて プラスチックの構造、合成、用途など
2 環境問題について ※  環境問題(海洋プラスチック問題)、SDGs
3 文具からプラスチックを削減するには?! オンライン授業、調べ学習のまとめ
4 アイデアの具現化 アイデアの具現化(設計図、試作)、発表

 

3.京都大学とつないだオンライン授業

 京都大学と本校(福岡県立三池工業高等学校)をZOOMでつなぎオンライン授業を行った。詳しくは、高校1年生の教科:「科学と人間生活」のプラスチックを学ぶ単元の授業において、「文具の中からプラスチックを削減できるか?!」というテーマで、京都大学の浅利美鈴准教授に講義を、工学部地球工学科2回生桝田詩織さんに取り組みの説明と生徒の質問へのアドバイスをして頂いた(図4)。ほとんどの生徒は、大学の先生による講義は初めての経験であった。生徒たちは、熱心に先生方の講義や説明に聞き入っていた。その後、グループワークとして、ワークシートを活用しながら、それぞれのアイディアを出し合った。その際、オンラインでつないだノートパソコンを設置し、質問コーナーを設けた。何人かの生徒が順番待ちをしながら、それぞれ考えたアイデアや質問を真剣に桝田さんに投げかけていた(図5)。

図4 オンライン授業の様子 図5 質問コーナーの様子

 

4.使用した教材

今回の授業では、生徒のアイデアを引き出すために、探究学習のPC×(クロス)Rサイクルと連動したSDGsを考慮した理数探究ワークシートを用いた。以下、「探究学習のPC×(クロス)Rサイクル」と「SDGsを考慮した理数探究ワークシート」について説明する。

(1)探究学習のPC×(クロス)Rサイクル

探究学習のPC×(クロス)Rサイクルとは、近年、統計学の分野で用いられる課題解決フレームワーク(PPDACサイクル)を参考にし、探究学習に特化した新たな学習フレームワークとして東京都教育委員会開発委員会が開発(2018年)したものである(図6)。探究学習のPC×(クロス)Rサイクルの構造は、P「問題発見」、C「結論」、×R「これまでの観点の振り返り」の3つの大観点からできている。さらに、大観点P「問題発見」は、「問題発見(P)」、「研究計画(P)」、「データの収集(D)」、「分析・整理(A)」の4つの中観点からできている。探究学習の期間は、P「問題発見」の4つの中観点を相互に行き来し、仮説・検証を繰り返し、最後にC「結論」を行う。さらに、それぞれの観点において、その都度 ×R「これまでの観点の振り返り」を行うことで、探究学習の精度と効果を高める。この探究学習のPC×(クロス)Rサイクルと連動したコモンルーブリックや評価シートも存在し、探究学習の精度を上げるための教材として、東京都だけでなく全国に広がりつつある。

図6 探究学習のPC×(クロス)Rサイクル

 

(2)SDGsを考慮した理数探究ワークシート

今回用いた「SDGsを考慮した理数探究ワークシート」は、「探究学習のPC×Rサイクル」を基に作成した(図7)。今回は、「探究学習のPC×Rサイクル」の中で、探究課題(問題発見)である「文具の中からプラスチックを削減できるか?!」に対し、探究計画(研究計画)として、アイデアを創出し、具現化するまでのプロセスとこれまでの振り返りを行った。特に、探究計画では、「① プラスチックの多い文具は?」、「②  ①で考えた文具は、昔はどのようなものだったか?」、「③ あなたの考える環境にやさしい文具とは?」、「④ アイデアの具現化:製図、できた文具」という手順を辿ることで、アイデアを創出しやすくなるような工夫を行った。また、発想のヒントとして、関連するSDGsやキーワード(環境にやさしい、手作り、こだわり(愛着)、長く使える、今あるものを生かす)をワークシートに記した。生徒たちは、アイデアを創出することに苦労しながらも、ワークシートに沿って熱心に取り組んでいた(図8)。生徒は、調べ学習として、探究計画「②  ①で考えた文具は、昔はどのようなものだったか?」に取り組んでいたが、昔の人の工夫を新鮮に受け止めていた。

図7 使用したワークシート(改) 図8 生徒の取り組みの様子

 

5.結果(生徒の発案・発明)

(1)インクをつぎ足し使えるペン(生徒A)

生徒A(図9)は、当初の「アイデアの具現化(図10)」において、鉛筆を用いたアイデア文具を考えていたが、作成段階でその困難さに気付き、万年筆のインクカートリッジの削減を目的に「インクをつぎ足し使えるペン」を考案した(図11)。具体的には、付けペン用のペン先に、インク溜めタンクとして鉛筆キャップ(金属製)の用い、ゴム製の蓋を取り付け、それをカバーで覆い、布テープで巻いて仕上げた。工夫した点は、インク溜めタンクに小さな穴をあけ、糸でペン先の裏にインクを誘導させ、尚且つインクが一気にペン先に流れないように糸の種類や大きさなどを調整した点である。その結果、本人は知らずにカートリッジ式以前のタイプを手作りしてしまった。

その後、半世紀に渡り万年筆を愛用している教師歴43年のベテラン教員に吸入式万年筆を見せてもらい、興味津々に説明を聞いていた(図12)。そこで、吸入式以外にも、自作のペンにおける液漏れの問題や書きやすさの問題点が、万年筆において工夫され解決されていることに驚いていた。特に、液漏れ問題に対し、万年筆のペン先に毛細管現象を利用した割れ目による工夫に気付き、感動していた。

(参考)生徒Aの発表動画は、次のURL(http://kantanken.net/kyozai.html)からアクセス可。

 

 

図9 生徒Aの発表の様子 図10 アイデアの具現化(設計図)
図11 作成した手作り文具 図12 吸入式万年筆の説明を受ける

生徒A

 

(2)芯がチョークでできた鉛筆(生徒B)

生徒B(図13)は、消しゴムの原料がプラスチックと知り、書いても消せる鉛筆を考案した(図14)。工夫した点は、鉛筆の芯の部分をチョーク(炭酸カルシウム)にし、布などで拭けば簡単に書いた文字が消せ、何度でも使える点ある。今後の課題は、実物を作成すること、残したい文字を保存する方法を考えること、黒いチョークを作ることである。

(参考)生徒Bの発表動画は、次のURL(http://kantanken.net/kyozai.html)からアクセス可。

 

図13 生徒Bの発表の様子 図14 アイデアの具現化(設計図)

 

(3)竹製ボディー万年筆(生徒C)

生徒C(図15)は、ペン類(シャープペンシル、万年筆など)に多くのプラスチックが使われていることを知り、プラスチックを削減するため、ペン類のボデーを天然素材に換えた文具を考案した(図16)。その結果、万年筆に竹製のボディーを装着し、麻紐でデコレーションすることでこだわり文具を作成した(図17)。併せてキャップも作製した。今回作成した手作り文具は試作であり、設計図では、竹を4枚併せて、麻紐でなどで縛り、付けペンとして使用できる竹製のペン先を作成し、全てを天然素材にすることを考えていた。また、付けペン以外の使用方法として、竹製のペン先を焼いて炭化させることにより、鉛筆と同じように使用できるように工夫した。今後の展望としては、設計図のように、ペン先も竹製にし、付けペンや先端を炭化させ鉛筆と同じように使用できる文具を目指す。

(参考)生徒Cの発表動画は、次のURL(http://kantanken.net/kyozai.html)からアクセス可。

 

図15 生徒Cの

発表の様子

図16 アイデアの具現化

(設計図)

図17 作成した手作り

文具

 

(4)その他のアイデアと感想

以下、上記以外の生徒によるアイデアと感想を記す。

(その他のアイデア)

  • 修正ペンのようなシャープペンシル。間違えたらシールのように剥がせる文具。
  • いらないペン類を紙粘土でコーティングする(図18)。
  • 定規、消しゴム、芯ケースなどと一体化したシャープペンシル。
  • 消しゴムの消しかすを固めて再利用できる消しゴム。

 

図18 紙粘土でコーティングしたペン

 

 

(生徒の感想)

  • プラスチックは利益は大きいが、リスクも大きいことが分かった。
  • プラスチック問題を知れ、行動に移すことの大切さも知れた。
  • 今は便利だけど環境に悪いものが多い。昔はその逆だと分かった。
  • 昔の人はアイディアがすごいと分かった。
  • 簡単に見えて物を作るのは難しいと分かった。
  • プラスチック製品を長く使ったり、減らしていこうと思った。
  • 便利なものには何かしらデメリットがあるので、10年後を考えて物を作るべきだろう。
  • 文具は軽さが大切なのでプラスチックを減らすのは難しい。
  • 普段意識していないプラスチック問題に目を向けることができた。

 

6.廃棄されるプラスチック製品から消しゴムをつくる実験

台風(10号)の被害を受けて廃棄された農業用ビニル(生徒持参)を用い、消しゴムを作成することにした。消しゴムの原料となるポリ塩化ビニルは、可塑剤と反応させることで、柔らかくなり消しゴムを作成することができる。ポリ塩化ビニル樹脂に最も使用されている可塑剤としてフタル酸エステル(特にフタル酸時ジエチルへキシル)がある。しかし、人体に悪影響を及ぼす可能性が強いため、本実験では比較的安全なアジピン酸エステル(アジピン酸ジイソノニル)を用いるなど工夫をした。

(実験手順)1.100mLビーカーに農業用ビニルをはさみで細かく切り(図19)、可塑剤を加える。農業用ビニル全体に可塑剤が交わるようにガラス棒で混ぜる。2.炭酸カルシウムを含むチョークを粉末にして、電子てんびんを用いて薬包紙に測り取り、ビーカーに加え攪拌する(図20)。チョークの色によって消しゴムが着色される。3.定温乾燥機に約150℃の熱を加えて溶解させる。高温になるとアジピン酸エステルが揮発し、塑性が十分に発揮することができなくなることがあるため温度管理が重要となる。また、この時の温度や時間で消しゴムの硬さが決まる。4.溶解させた状態の混合液を型に流し込み形成させる。放冷した後、水冷する。樹脂内の可塑剤は完全に固定されておらず樹脂内を自由に動き回っている。そのため、ほかの樹脂(塗装面やプラスチック面)と接触すると可塑剤が移行する傾向がある。そこで、付着防止のため、乾燥した消しゴムにデンプンでまぶす。

今回の実験では、授業内では完成に至らず、放課後に行った実験で、何とか消しゴムを作成することができた(図21)。しかし、純粋なポリ塩化ビニルのモノマーでなく、製品化され安定剤が添加された廃材を材料に用いたため、温度管理が非常に難しく、色や再現性などに課題を残した。今後、更に実験と改良を続け、廃材のプラスチックを再利用する環境探究実験を確立し、それと連動したモデル授業を構築したいと考えている。

 

図19 農業用ビニルをはさみで細断 図20 生徒に実験方法を指導している様子 図21 作成した消しゴム

 

7.分析

消しゴム作成実験を行ったクラスの生徒(65名)にアンケートを行った。アンケートは、4段階(Very Yes〔橙〕、Yes〔黄〕、 No〔緑〕、Quite No〔茶〕)で行った。結果の比較は、授業前後で肯定的な解答(Very Yes〔橙〕、Yes〔黄〕)がどれだけ向上したかを検討した。その結果、SDGsの理解が39.8%向上した(図22,23)。また、プラスチックの利点と欠点の理解が38.1%向上し(図24,25)、プラスチック製品に対する自分の考えを持てるようになった生徒が32.9%向上した(図26,27)。さらに、問題解決方法の理解が54.2%向上した(図28,29)。そして、オンライン授業により興味関心が湧いた生徒が62.5%存在し(図30)、今回の取り組みを楽しいと感じた生徒は70.3%であった(図31)。

図22 授業前のSDGsの理解 図23 授業後のSDGsの理解
図24 授業前のプラスチックの

利点と欠点の理解

図25 授業後のプラスチックの

利点と欠点の理解

図26 授業前のプラスチック製品に

対する自分の考えの有無

図27 授業後のプラスチック製品に

対する自分の考えの有無

図28 授業前の問題解決方法の理解 図29 授業後の問題解決方法の理解
図30 オンライン授業による

興味関心の向上

図31 今回の取り組みについて

 

8.考察とまとめ

京都大学と連携してオンライン授業を行った結果、生徒の興味関心を引き出し、SDGsやプラスチック問題に関する理解が深まった。また、文具におけるプラスチックの削減をテーマにSDGsを考慮した環境探究学習を行った結果、プラスチック製品の利点と欠点を理解することで、将来どのようにそれらを用いていくか自分なりの考えを持てる生徒が増えた。さらに、「SDGsを考慮した理数探究ワークシート」を用いた結果、問題を解決する手法の理解につながり、「探究学習のPC×Rサイクル」の有効性が示唆された。また、探究課題Pと探究計画(研究計画)P、これまでの振り返りRをのプロセスを学ぶ「理数探究」モデル授業を開発することができた。その成果として、生徒たちはアイデアを具現化することができた。

 

9.今後の展望

今回の取り組みを通して、大学などと外部連携によるオンライン授業や身近な環境問題をテーマとして探究学習を行うことは、とても有効であることが分かった。そこで、今後、様々な環境問題をテーマに、大学などと外部連携によるオンライン授業を行い、理数探究に関するモデル授業を増やしていきたい。

 

参考

 今回の取り組みのおける生徒の発表や感想動画、ワークシートなどの資料は、環境探究学研究会HPで公開しています。ぜひご覧ください。

http://kantanken.net/kyozai.html

 

 

 

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