●1.はじめに
レジ袋は、日本全国での年間使用枚数が400億枚1)と言われています。京都大学の生協購買全7店舗での2007年度以前の年間使用量はおよそ100万枚に達していました。また、昼食時の利用が大半であることから袋の寿命は短く、学内には使い捨てられたレジ袋が目立っていました(図1)。そのため、レジ袋の使用量を削減することで、学内の美観を維持し、環境負荷を低減させることが求められていました。
そこで、大学は2007年度の環境目標・実施計画の一つに「枯渇性資源由来廃棄物の発生抑制対策」を掲げ、特に「レジ袋削減対策」を講じることとしました。生協としても、大学と協力して使用量の大幅な削減に向けた検討・取り組みを本格的に始めました。また、学内の㈱ローソンの店舗も大幅な削減に向けた調整を行いながら、大学全体としてレジ袋削減対策に取り組みました。
●2.取り組みの経緯
生協では、構成員一人ひとりがレジ袋を断りやすい環境づくりのために、レジ袋の使用を控えるよう呼びかけるPOPやポスターの掲示(図2)、使用率推移のグラフの週毎の掲示(図3)、新入生全員へのオリジナルマイバッグの配布等を行ってきました。
こうした取り組みも、「袋を断る」という行動に結びつけることは十分できませんでした。当時、袋の使用率は平均で約60%であり、使用率はこれより下がることはありませんでした。
●3.有料化実施を模索料化実施を模索
レジ袋対策の切り札としてレジ袋の有料化が考えられました。実施にあたっては、構成員からの理解が得られるかどうかや店舗オペレーションの変更等の課題がありました。
構成員の有料化への意識については、店舗利用者に対してシール投票とヒアリングによって調査を行いました。シール投票では、レジ袋有料化について賛成が569票、反対が320票となりました。桂キャンパスでのヒアリングでは、100名以上の回答者のうち9割以上が、レジ袋を必要な時だけ配布しそれ以外の場合は特に必要ないと答えました。桂キャンパスは主に研究室、実験室から成っており、購買利用者も商品を研究室内に持ち帰る傾向が高く袋の必要性をそれほど高く感じていなかったと思われます。調査結果やこの間のレジ袋削減の取り組みの認知度および理解度が非常に高かったことを踏まえ、今後有料化を含めた抜本的な削減対策を実施するにあたっては一定の理解が得られると考えました。
また、有料化実施に伴う店舗オペレーションの変更について、第一の懸念はレジスピードの低下でした。レジ担当職員が袋に入れて手渡すことをしなくなるため、利用者は支払いが済んだ商品を自分のかばんに入れるか手で持つといった作業が必要となります。それゆえ、特に昼食の時間帯にはレジ付近が混雑し、レジスピードの低下によって売り上げ減少につながる恐れがあっため、有料化実施にはこの点の解決が欠かせませんでした。
レジ処理のスピードを落とさないための方法を探るため、2007年の6月、実際に有料化が実施されている東京都のスーパーおよび千葉大学生協の購買店舗を見学しました。東京都のスーパーは、実施にあたって事前広報を行ったり、有料化実施前にはポイント制を導入することでマイバッグ持参を呼びかけていたりしたため、利用者からの理解が得られやすい土壌があったとのことでした。有料化実施後も利用者の99%がそのスーパーに来続けています。千葉大学生協の方は有料化実施から1年以上が経過しており、昼食のピーク時にも利用者はレジにおける商品の受け渡しや支払いをスムーズに行っていました。そこでの工夫の一つとして、トレーの活用がありました。まず利用者は、商品をレジ台に置いてある約30cm四方のトレーの上に置きます。レジの職員はバーコードを読み込んだ後、もう一つのトレーの上に商品を置いていきます。利用者は支払いを済ませると、商品をトレーごと持ちサッカー台(商品を袋詰めするための台)まで持って行き、そこで自分の袋に詰めるか手で持つかして退店します。複数の商品を購入しても、上記の要領でトレーを活用することにより利用者は持ち帰りの作業を余裕を持ってできると同時に、レジスピードも落とさずに済むことが分かりました。
見学を終え、上記の事例を参考にすれば京大生協においても有料化を実施することは十分に可能であるという認識が確認され、実施時期を検討する動きが高まりつつありました。
●4.非有料化で削減
前述のように、生協での有料化実施はおおよそ確定的でした。しかし、中には「有料化によって使用枚数は減るだろうが、果たして利用者の環境意識が高まるのか」という意見が出始めました。つまり、有料化している店舗では袋を断るがそうではない店舗では袋をもらうのではないかということが考えられたのです。そこで、新たに「原則として袋は提供せず、必要との申し出があった場合に限って袋を渡す」という方式(新方式)が提案されました。利用者が自分から申し出ることによって、袋の必要性を考えることができ、意識の向上に少なからず貢献できるのではないかというのがねらいです。まずは無料のままで原則渡さないというやり方を実施して、削減が不十分であれば有料化を実施することが決定されました。
●5.実施概要
無料のままで削減を目指すべく設定した実施概要は以下に示す通りです。
・対象商品はショップで販売するほぼすべての商品(一部例会あり)とする。
・2007年の9月~10月を事前告知期間とする。
・11月1日より、京大生協ショップ全店で袋詰めを廃止するとともに、必要との申し出があった人には無料で袋を提供する。
事前告知期間には、店舗でのポスター掲示やリーフレットの配布、生協機関紙への告知文掲載などで新方式の概要を説明し、導入への理解を呼びかけました。また、利用者が商品を袋詰めしやすい環境を整えることが必要であるため、トレーの導入およびサッカー台の設置等を行いました。また、新方式への移行をスムーズに行い、以後の店舗運営に支障をきたすことがないよう、レジでのやり取りのシミュレーションを行うなど店舗ごとに工夫を行いました。
●6.レジ袋使用量の把握とその推移
新方式による削減効果を検証するためにはレジ袋がどのくらい使用されているのかを定期的に調査する必要があります。生協では毎月、全店舗でレジ袋の使用枚数リサーチを行っています。図6にその結果(一部)を示します。 なお、使用率は(使用枚数)/(店舗利用客数)によって計算しています。店舗利用客数はレジ通過人数です。使用枚数の計測方法については、(前月の在庫)+(その月に追加した枚数;100枚単位)-(その月の残り)を基本としています。
2007年10月は新方式の開始前ですが、事前広報の効果もあり使用率は30%とそれ以前と比べて大きく減少しています。開始後の11月は半減し、2008年1月に使用率10%以下を達成しました。1月以降も使用率は順調に減少していますが、新学期(4月)には新入生の利用が始まったこと、学内に滞在する人数自体が増加し購買の利用者が増えたことにより、他の月に比べて使用率が高くなっています。 店舗別に見ると、時計台ショップを除いた吉田キャンパスにある3店舗は、新方式導入以降では5%以下の使用率を概ね達成できています。また、宇治および桂キャンパスでも同様に5%以下の使用率で推移してきています。ただし時計台ショップでは使用率が10%を上回る月が多くなっています。この店舗では、利用者が最も多いこと、修学旅行生や学生の父兄などの学外者が袋を使用していることが理由と考えられます。当該店舗の使用寄与率(当該店舗の使用枚数/全店舗での使用枚数)の推移を見ると、2007年11月以降60%~70%の値を取っていますが、オープンキャンパスが行われた2008年8月にはおよそ80%と最大値を示しました。その月の使用率は17%と、その前後の月に比べて2倍以上の値でした。オープンキャンパスの際には時計台ショップでしか購入できないオリジナルグッズなどの需要が非常に高く、それらを購入する高校生や父兄による袋の使用分が反映されていると考えられます。
●7.レジ袋削減枚数の試算
新方式導入前のレジ袋使用枚数から新方式導入後の使用枚数を引けば、新方式による削減枚数を出すことができます。新方式導入前(2006年9月~2007年8月)および導入後(2007年9月~2008年8月)の年間使用枚数を求めると1,107,100枚、243,300枚となりました。これより、年間削減枚数は863,800枚で削減率は78%となります。
●8.まとめと今後の課題
新方式は有料化ではなく、あえて無料のままで削減を目指すという点において、導入当初は効果が未知数であったことは事実です。しかし、導入から1年以上が経過し、従来は年間100万枚以上使用されていたものが、2007年9月~2008年8月の1年間での使用枚数はおよそ20万枚でした。新方式の導入は環境負荷低減の上で相当な効果があったと言えます。また、生協が実施した「第44回 学生生活実態調査 独自アンケート」(対象:学部1~4回生、回収サンプル数448(回収率:48.7%))より、生協の新方式導入をきっかけに約7割が「レジ袋以外の包装も断るようになった」、約6割が「使い捨てをしないようになった」と回答しており、構成員の環境意識向上の面でも貢献していることが示されました。
しかし、この間に課題も出てきました。6章で述べたように、新学期やオープンキャンパスでの使用枚数増大は、通常期での削減が今後一層進んでいくことで、対応の必要性が浮き彫りになってくると考えます。新学期においては、新入生への説明をこれまで以上に積極的に行い、店舗においても協力を呼びかける体制を構築していくことが必要です。また、オープンキャンパス等の各種行事の際には、学外者への協力を求めるための仕組みづくりが重要であり、これらはいずれも今後真剣に検討していく課題です。
●参考文献
1) 浅利美鈴、佐藤直己、酒井伸一、中村一夫、群嶌孝:レジ袋ごみの課題と展望-その量と質の観点から
廃棄物学会誌Vol.19, No.5, pp187-193, 2008