文責・清水
複雑な生態系を少しでも理解し、さまざまな自然を徹底的に究明したい京大!バイオスクープ。今回のご依頼はこちら「小さいころに花から甘い蜜を吸っていました。何の木ですか?」もちろん、どの花の蜜を吸っていたのかは地域差があることでしょうから、一概にこれだとはいえませんが……全国的に生えているので可能性が高いのはツツジ、特にヒラドツツジではないでしょうか?!
ヒラドツツジ
学名 Rhododendron x pulchrum ツツジ科ツツジ属
開花時期 4~6月
@吉田南構内 吉田南総合館西棟出入口
へぇ☆「あまーい蜜」
ツツジといえば、「蜜」!となる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
というわけで、蜜を吸ってみましょう。
最初に忠告を。乱獲はしてはいけません!少し楽しむ程度にしてくださいね。
そして、もしかしたらペットの糞尿などで汚れていることもあるので、不安な方は花を水で洗うなどした方が良いです!
遠目からでもわかる鮮やかな花、こんもりと手入れされた緑の山。これがツツジですね
「がく」(花の根本の緑の部分)からブチっと一つ取りまして
そのがくをはずしましょう。
この花の根本から蜜を吸います!
あー、甘くて美味しい!というわけです。
何度も申しあげますが、周囲に迷惑をかけずに(人の家の蜜を吸うなんてもってのほか!)、安全に楽しんでくださいね🎵
へぇ☆☆「毒がまわると前に進めなくなる」
実はツツジ属のほかの種には、毒をもつものもあるのです。中国では、ツツジは家畜に有害な木としてよく知られ、「山羊蹌踉」と呼ばれています。漢字はツツジの葉を食べてしまったヤギや羊の足が麻痺して、よろめく様子を表しています。
日本でツツジの漢字は「躑躅」です。
「躑(てき)」は、たたずむ、行きなやむ、あしぶみする、「躅(ちょく)」も、あしずりする、あがくといった意味で、「躑躅」とは、歩行の進まない状態、あしぶみを意味しています。
紀元前にさかのぼると、ローマ帝国の兵士たちが戦争中に寄った地元の民たちが、ツツジ毒の入った蜂の巣を供しました。兵士たちがそれを食して数時間後、意識が混濁し嘔吐、気絶、の症状を呈し、その地元民に皆殺しにされました。ツツジ毒の最古の記録は、同じく蜂蜜で当たったギリシアの傭兵たちだそう。
これらのツツジの毒は、グラヤノトキシンという毒素のためです。なかでもシャクナゲ亜属の種は花の蜜にグラヤノトキシンを含んでいます。
幸い、我々の周りに多く生息しているヒラドツツジやサツキには毒性はありませんが、日本に生息するツツジの中ではレンゲツツジ(Rhododendron molle subsp. japonicum)は毒素を持っています。花は朱橙色で大きく、ヒラドツツジより二回り以上大きな葉を持ちます。冷温帯に自生するので日本のほとんどの地域では心配がありませんが、頭の隅には入れておきたい知識です。
へぇ☆☆☆「アザレアになったりツツジになったり」
日本の本州に生息する樹木をほとんどすべて掲載しているといわれている、「樹木の葉」という本には、ツツジ科ツツジ属にさまざまな種が掲載されています。街中で見かけることが多いのはシャクナゲ(Rhododendron japonoheptamerum)に代表される○○シャクナゲとその変種や、サツキ(Rhododendron indicum)、ミツバツツジ(Rhododendron dilatatum)、モチツツジ(Rhododendron macrosepalum)、ヒラドツツジ(Rhododendron pulchrum)など属名と同じように和名にツツジを冠するものたちでしょう。
そして、皆様が「ツツジ」と聞いて思い浮かべるのは、サツキかヒラドツツジのどちらかの可能性が非常に高いです。
まず、シャクナゲ系については、成人の手のひらほどの葉身の細長い葉っぱをもっています。葉っぱの裏には毛が密生し茶褐色をしており、花弁は7つに裂けています。一方、ツツジの花弁は5枚に裂けています。そして、ミツバツツジ系は、菱形で3つあわせて手のひらほどのサイズの葉っぱを持っています。サツキの葉は指の先から第1関節までの小さい葉っぱ、ヒラドツツジは手のひらほどの長さで細長い葉っぱです。身の回りを振り返ってみればサツキかヒラドツツジがたくさん植えられているはずです。よーく観察してみてください!
ツツジは英語圏では「アザレア(Azalea)」と呼ばれています。ツツジ属の多くの種は東アジアが原産とされていますが、欧米でも親しまれています。1995年ごろ、ツツジの専門家は隣人同士の争いに呼び出されました。一方は両者の敷地を隔てている低木の垣根を撤去したいといい、もう一方は両者の敷地について定めた厳格な約定を引用しました。そこには、敷地を隔てているツツジの木を撤去してはならないとあるのです。しかし、相手はいいました「あれはツツジじゃない、アザレアだ。よって約定は適用されない!」と。
種明かしをすると、科学的には、アザレアと呼ばれている植物はツツジに包含されます。ではなぜ。彼には「アザレアとツツジはちがう」という認識があったのでしょうか?
実は、アザレアとツツジとが異なる系統に分類されていた過去があり、今でもその余韻があるのです。
カール・フォン・リンネ(1707~78年)は分類学の父と呼ばれ、学名を属名と種小名の2単語であらわす方法を確立した偉大な人です。リンネは植物を雄しべ、雌しべ、花弁の数と形で分類しました。彼は5本の雄しべと5枚の合弁花をもつアザレアと、それに似ている10本の雄蕊をもつ標本を持っていました。リンネの体系(分類の方法)では雄しべの数が異なるこれらは同属にはなりませんので、10本の雄蕊の植物をツツジ(Rhondodendron)と呼びました。こうして隔たれたアザレアとツツジの境界は、今もなお園芸界に残っています。さらに、日本原産のシャクナゲも異なる属となり、熱帯のV・マラヤナのためにビレアという属もできました。しかし1700年代後半から、ツツジ属とアザレア属をひとつにまとめるべきだと提案され、いくつかの種がツツジ属にうつされました。それでもこの動きに反対する派閥もいて、新しい種が発見されるとツツジ属と言われたり、いやアザレアだと言われたりすることも起きました。結局、ある研究者いによる、1943年にアザレア属に新種を加える試みが、他の研究者たちに無視されて以降、アザレアの存在はなくなり、アザレアと呼ばれていた・今でも呼ばれている種の多くがツツジ属に入っています。
沖縄県東村では、例年3月に「つつじ祭り」というお花のお祭りが開かれています。お祭りが開かれる村民の森つつじ園には数種のツツジが植えられいるそうですが、ほとんどがヒラドツツジであったような気がします。しかし中の案内板には「Azalea」の文字が……アザレアの息は絶えませんね。
その甘い蜜でも名高い初夏の花、ツツジには、
名前やその分類の歴史など、可愛らしいだけではない一面もあったことがわかりました!
ツツジは古くから愛される甘い花だった。
参考文献
林 将行. 樹木の葉. 山と渓谷社, 2019/12/16初版
リチャードミルトン著、竹田円訳、ツツジの文化誌、原書房、2022/4/27初版
京都府(2017/10/11). 森の彩り 季節の話題 つつじ-. 京都府. https://www.pref.kyoto.jp/rinmu/14100079.html (2025/3/11最終閲覧)
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