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吉田研究室の紹介/吉田 治典【京都大学エネルギー管理推進室前室長】(No.1)

2009.12.10

学び

地球環境問題の最重要な課題であるCO2発生は、その1/3が建築分野に起因するといわれます。特に建築の運用時におけるCO2発生は、建築の生産時の発生よりも遥かに多いことから、建築と建築設備システムの省エネルギーや自然のポテンシャル利用に関する研究は?21世紀における建築の最重要課題です。

また、世界各地で都市への人口集中が進展し、早晩60%以上の人間が都市で生活することになると言われています。このことから、建築を単体として捉えるだけではなく、都市の構成要素として位置付け、それにより創出される都市・地域の環境やエネルギー問題を広い視点で捉えて、持続的で安全かつ快適な社会を創出することも重要です。

以下は、当研究室で取り組んでいる研究です。

都市のヒートアイランドの分析と改善

  • 都市化の進行によって地表面が人工物に改変され、また活発な人間活動により人工排熱が増しています。この影響により都市気温の上昇、いわゆるヒートアイランドが生じています。そこで、熱環境形成に大きな影響をおよぼす人工排熱、植栽による蒸散効果、建物形状などを、実測とシミュレーションの両面で定量的に分析すると共に、その結果を援用して市街地の温熱環境改善の提案を行っています。
  • 具体的には、対流と建物間の放射伝熱の分析、都市上空の熱流や街区内の気温を連成させた?CFD?計算モデルの作成、建物壁体と地盤の非定常熱伝導計算を組み込んだ街区スケールの気温・湿度・風速分布・上空熱輸送量をシミュレートする都市環境予測モデルの作成、街区熱環境の実測とシミュレーション結果の比較検証、大阪御堂筋のヒートアイランド改善手法の提案などに取り組んでいます。
  • 図1 年上空における熱流測定機器
  • 図2 大阪御堂筋の街区モデルと気温のシミュレーション結果

 

空調システムの性能検証による省エネルギー

非住宅建物ではエネルギーの約50%が空調のために消費されます。最近では、省エネルギー設計が様々な高効率の機器を利用して進められますが、実際の性能は必ずしも意図したとおりにはならないことが結構あります。その理由は、システムに不具合があったり、運転方法や制御が不適切であったり、最適化されていなかったりするためです。これを解消するプロセスをコミッショニングと呼び、現在のどの国でも取り組みが進んでいます。以下では、当研究室が取り組んできたいくつかのコミッショニングプロジェクトを示します。

熱源の地域冷暖房プラントの運転最適化

都市の熱供給を集中化してエネルギーの高効率利用を図るため、日本では地域冷暖房が1970年代以来作られてきました。しかし,その運用方法は試行錯誤的で高効率化を達成できていない例もたくさんあります。本研究では、シミュレーションを用いて既設の地域冷暖房熱源システムの最適運転法を分析し、運転方法を最適化することを目的としています。

本研究では、まず、熱源システムを構成する機器のモデル化をメーカーより提供された特性曲線、物理特性に基づきモデル化を行い、モデルを用いて各機器の性能検証を行いました。その各機器モデル、制御モデルを連結し熱源システム全体のシミュレーションモデルの構築を行い、熱源システム全体のモデルを用いてサブシステムごとやシステム全体の最適運転の検討を行いました。この結果を利用して、これまでに、1)冷凍機冷却水入口温度の最適化、2)効率の悪い氷蓄熱槽サブシステムなしでの運転の検討、3)冷水戻り温度の最適化、4)蓄熱槽の最適な利用方法、などについて検討を行い、実際のシステムでその効果を検証しています。

図1 当熱源プラントの供給対象建物

図2 熱源プラントの系統図

 

自然エネルギーを利用した季間蓄熱を有する空調システムの運転最適化

冬季の外気が持つ冷熱を地盤に蓄熱し、これを冷房期の熱源として使う空調システムの最適運転手法に関する検討を行いました。このシステムでは,蓄採熱時にポンプが長期に亘って使われるため、システムを不適切に運転すると一般の冷凍機を用いる空調システムよりも余分なエネルギーを消費する可能性があります。しかし運転の最小サイクルは1年で、また地盤の伝熱は長期に及ぶため、実システムで様々な運転方法を試すことは困難です。したがって地盤蓄熱を含むシミュレーションモデルを作成して最適な運転方法を見出しました。実システムにおいて、この提案する運転方法に代えると、当初の効率を倍以上に高めることができました。

図1 システムの概要

図2 有限要素法による地盤蓄熱のシミュレーション

 

空調熱負荷予測に基づく水蓄熱式空調システム最適運転法

以前から、夜間電力の利用によるCO2削減策の一つとして、蓄熱式空調システムの利用が注目されています。しかし、実際の運用状況を調べると、蓄熱槽を持つ建物のエネルギー消費量が蓄熱槽を持たない建物と比べて予想外に多いという調査報告もあります。本研究では、こうした設計性能を満足しない運転を改善するために、熱負荷予測情報を基にして合理的に運転する新しいアルゴリズムを提案し、シミュレーションによってその効果を示し、それを実建物に適用して、省エネルギー効果の検証を行いました。

図1 対象建物

図2 最適運転のイメージ

上記以外の関連研究テーマ

  • ・ 実建物を用いたシミュレーションによる補正ベースライン推定法
  • ・ シミュレーションを用いた実複合熱源システムの最適組合せ運転法に関する研究
  • ・ 可変風量システムの不具合検知・診断手法に関する研究
  • ・ 分散型システムのモデルベース性能検証手法の提案と実証

 

環境建築の分析と設計

地球環境負荷の少ない建築を造るには、建築とその環境や設備を一体的に考慮して設計し運用することが不可欠です。こういう建築を環境建築とか環境共生建築とか呼びます。環境建築に関わる要素には様々なものがあります。以下は、当研究室で関わりを持った要素の紹介です。

屋上緑化による冷房機効率改善の研究

近年、都市ヒートアイランドの緩和策として屋上緑化が進められてきましたが、屋上緑化システムが持つ日射遮蔽や蒸散作用効果を利用して、分散型空調システムのエネルギー消費量を削減するシステムの開発はまだ見られませせん。長期間の維持に手間のかかる屋上緑化に、ヒートアイランド削減効果だけでなくそれ以外の付加価値を持たせないと、いずれ屋上緑化は一時のファッションで終わることが危惧されます。本研究では、蒸散量が一般の屋上緑化の4倍程度ある水気耕栽培屋上緑化システムを利用して、高効率な分散型空調システムの実現を目指すものです。本研究の目的は下記の通りです。

  • ① 屋上緑化システムの冷却効果に関する基礎データの収集
  • ② 空調機と連携した屋上緑化システムの数学モデルの開発
  • 実際の屋上で、このシステムの性能を確認したところ、5~10%の省エネルギー効果が得られました。

図1 空調機と連携した屋上緑化システム概念図

図2 水耕栽培で茂った芋の葉

 

集合住宅周辺の樹木が屋外の温熱環境に与える影響に関する研究

集合住宅周辺の樹木がどの程度屋外の温熱環境に影響を与え、それが室内の涼しさにどの程度関わるものかを実測調査しまちさ。また、集合住宅周辺の樹木はどの程度植えればいいのかをシミュレーションで推定する手法も開発しました。

具体的には、住棟間に樹木があるところとない所で、樹木が温熱環境に与える蒸散や蒸発の影響を明らかにし、樹木の蒸散速度を気孔コンダクタンスモデルにより捉えてシミュレーション結果と実測結果を比較考察しています。屋外の温熱環境を夏季に実測して、次の結果を得ました。1)?降雨後に樹木は外気温を緩和する効果がある、2)日陰の樹木の蒸発量は日向の蒸発量の1/3~1/2である、また気孔コンダクタンスモデルのパラメータを、落葉樹について茎熱収支法で観測した結果を用いて同定しました。

  • 図1 実測風景と樹木の蒸散・蒸発の測定

 

形態の異なる街路における物理的温熱環境と体感評価に基づく快適性の評価

快適な都市環境をつくるためには、室内環境のほかに、屋外空間(街路)や室内と屋外の関係も重要です。屋外環境は均質ではなく、街路、路地、建物周辺などでそれぞれに異なる環境が形成されます。そこで、本研究では、1)街区内の気候の分布を街路形態や街区形状により類型化し、物理的温熱環境と体感調査に基づいて街路の熱的快適性の評価を行いました。2)そのような温熱環境の差異により室内環境がどのように変化するのかを、居住者の環境調整行為に着目して調査分析し、住み手が主観的に快適と感じる環境について明らかにしました。

  • 図1 形態の異なる街路(左から路地・大通り・小路)

 

オフィスにおける省エネルギーのための自然換気制御法

ビルのエネルギー管理システムの技術進歩に伴い、わが国でも制御可能な自然換気システムの導入例がいくつか報告されるようになっています。しかし、制御の基準には未だにいくつかの課題があり、運用中に試行錯誤によって換気窓の開閉を行っているケースが多くみられ、場合によっては自然換気を行うことで室内温熱環境が悪化したり、かえって空調負荷が増加したりする懸念があります。

本研究では熱負荷削減の効果とオフィスビル在館者の快適感という、両方を満足させるような自然換気制御ロジックを提案し、自然換気口を自動制御することが可能なオフィスビルにその制御法を適用して、シミュレーションと実測により効果を検証しました。その結果、20%程度の省エネルギーが達成できることを実証しました。

図1 自然換気の経路

図2 自然換気のシミュレーションフロー

 

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2024年9月7日~2024年9月7日

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