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【京大!バイオスクープ file9】5月の昆虫 クルミホソガ

2023.05.29

学び 京大!バイオスクープ

文責・近藤陽香

複雑な生態系を少しでも理解し、さまざまな自然を徹底的に究明したい京大!バイオスクープ。今回のご依頼はこちら「クルミの葉っぱについてるジカキムシって何の虫?」

さて、まずは皆さん、ジカキムシとは何かご存知でしょうか。英語ではleaf minerと呼ばれ、葉っぱの中に潜って中身だけを食べる虫のことです。トンネル状に食べられた部分が白くなり、字を書いているように見えるので字書き虫です。絵を描いているようにも見えるのでエカキムシとも呼ばれます。

クルミの葉についた線状マイン。当たり前ですが以下全ての写真は無断転載禁止です。

ジカキムシと呼ばれる虫にはたくさんの種類がありますが、今回はクルミにつくジカキムシの一種、クルミホソガをご紹介したいと思います!

 

クルミホソガ
学名 Acrocercops transect
幼虫の食草(幼虫が食べられる葉っぱの種類):オニグルミ、サワグルミなどのクルミ科植物、ネジキ
成虫の体長:約4〜6mm

クルミホソガの成虫の写真です。羽の模様が個性的で、シュっとしたフォルムが美しく、おめめが赤いのも可愛いですね!非常に小さいので、これは顕微鏡越しで撮っております。(スマホカメラなのでこの先も画質は悪いです。ネットで検索するともうちょっと綺麗なのが見れるかも?しっかり見たい人はもう自分で育ててみてください)

 

場所:京大構内の農薬系研究棟の庭、上賀茂試験地、吉田山

 

成虫は小さすぎる上よく似た種もたくさんいるので見つけるのは非常に困難ですが、キャンパス内に幼虫がいるので、成虫がキャンパス内で見つかる可能性はあります。幼虫はクルミやネジキの葉にいて、見つけるのは比較的容易です。吉田山のネジキが近場で一番見つけやすいポイントだと思います。

 

へぇ☆☆「幼虫は葉っぱの中身だけを食べて育つ」

クルミホソガの一生は、親が葉っぱの表面に卵を産むところから始まります。生まれた幼虫はすぐに葉っぱの中にもぐり、「マイン」と呼ばれるトンネルを掘りながら葉っぱを食べすすんで成長します。
最初は文字や絵のようにも見える線状のマインですが、幼虫が大きくなり食べ進められていくと、マインは下の写真のような袋状のものになっていきます。


こちらはクルミの袋状マイン。このくらい大きくなると、肉眼でも光に透かすと幼虫が見えるようになってきます。もやっとしているところがマインで、幼虫が1匹入っているのが見えます。

複数匹入っていることもあります。食べすすめられた葉っぱは緑の部分が完全になくなり、表面の薄皮だけになったりすることも。食べてる様子はとても可愛いです!


大きくなった幼虫の体の色が赤くなったら、もうそろそろ蛹になる合図。住み慣れたマインを破って葉っぱから脱出し、葉っぱの溝などに糸を吐いて繭を作ります。

こちらはネジキの葉にできたマイン。マインの中に赤くなった幼虫が2匹、マインから出て繭を作っている途中の幼虫が1匹、マインから出て繭になるのにいい場所を探し回っている幼虫が1匹写っています。


蛹から羽化した成虫は元気に飛んだり跳んだり腕立て伏せをしたりしながら過ごし、交尾して卵を産みます。

羽化直後の成虫。羽を立てて伸ばしています。横に見えるのが繭です。

 

この水滴のような透明のものが卵です。肉眼で見るのはちょっと厳しいレベルの小ささです。

なぜ腕立て伏せをしているのかは今のところわかっていないようです。筋力と瞬発力に自信のある方はぜひ同じペースで腕立てしてみてください!

 

へぇ☆☆☆「幼虫の時にクルミを食べる集団とネジキを食べる集団がある」

上で、クルミホソガの幼虫はクルミの仲間やネジキを食べていると言いましたが、木をある程度知っている人は、ネジキとクルミって違いすぎない?と思ったのではないでしょうか。

ツツジ科のネジキとクルミ科のクルミは素人目にもわかるほど全く似ておらず、よく生えている場所、樹形、葉っぱの形や大きさ、匂いなども大きく異なります。

そして、ネジキを食べるクルミホソガの集団(ネジキレース)はネジキにしか卵を産まず、クルミを食べるクルミホソガの集団(クルミレース)はクルミにしか卵を産みません。

じゃあ違う種じゃないの?と思う方もいるかもしれませんが、2つのレースは交配して生殖能力のある子供を残すことができ、クルミとネジキは近くに生えていることもある(つまり、両レースが出会う可能性はある)ため、クルミレースもネジキレースも、クルミホソガという一つの種といえます。このように、同じ種の中に違う植物を利用する集団がある例は他にも多く知られており(リンゴミバエなど)、「植物を食べる昆虫の種内で分かれた、同じ場所で生活しているが、異なる植物を利用し、遺伝的にも違いがある集団」のことをホストレースと呼びます。

 

へぇ☆☆☆☆「同所的種文化の途上の種」

先ほどネジキを食べる集団はネジキにしか卵を産まず、クルミを食べる集団はクルミにしか卵を産まないと書いたのですが、幼虫がどの植物を食べられるかにも違いがあります。ネジキレースはネジキの葉はもちろん、クルミの葉も食べられるのに対して、クルミレースはネジキの葉を食べると死んでしまうことが分かっています。
この事実や分子系統学解析(遺伝子の解析)などから、元々は全てクルミレースであり、ネジキレースはクルミレースから分かれたと考えられています。

同じ種の生き物が、海水面の上昇やプレートの移動で海によって隔たれて遺伝子の交流が起きなくなり、それぞれ独自の進化をとげて種分化する、などというような「異所的種分化」の例は学校でも習ったことのある人がいると思います。しかし、種分化はそのような地理的な隔たりによって遺伝子の交流が起きなくなった場合にのみ起こってきたとは考えにくいため、遺伝子の交流が起きるような同所的な状況下でも種分化する例があるはずです。
その「同所的種分化」の途上にあるのが、クルミホソガのようなホストレースをもつ種なのではないかという考えがあり、日夜研究が進められております。

 

いかがでしたでしょうか。種分化の途中とも考えられる状態にいる種がこんなに身近にいると思うとワクワクしませんか?

ジカキムシという話でいくと、ハエの仲間などにもリーフマイナーはたくさんおり、マインの見た目がクルミホソガとは違ったりもします。
皆さんも、ぜひ身の回りでマインを探してみてくださいね!

参考文献

コトバンク「ジカキムシ」 (2023/5/16閲覧)
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B8%E3%82%AB%E3%82%AD%E3%83%A0%E3%82%B7-1548097

アース製薬「エカキムシ」 (2023/5/16閲覧)
https://www.earth.jp/earthgarden/zukan/gaichu/ekakimushi.html

Ohshima, Host race formation in the leaf-mining moth Acrocercops transecta (Lepidoptera: Gracillariidae). Biol. J. Linn. Soc. 93, 135-145 (2008).

種生物学会 編/川北篤・奥山雄大 責任編集.種間関係の生物学 共生・寄生・捕食の新しい姿.文一総合出版,2012

 

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