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【1】貧困率半減では問題解決にならない(柴田 悠 准教授)

2019.03.29

学び 2019年新入生企画

Goal 1 「貧困をなくそう」

柴田 悠 准教授(人間・環境学研究科)

 

貧困と聞くと途上国の問題で、日本には関係ないのでは?と思う人も多いでしょう。しかし、日本では子どもの7人に1人が「相対的貧困」の状態にあると言われています。その現状とは? 解決方法とは? 第一線で研究を続け、若者向けの社会保障について提言を続ける柴田悠准教授にお話を伺ってきました。

 

子どもにとって良い支援とは

  • まず、柴田先生の研究内容について教えて下さい。

大学院の頃から、若い人むけの社会保障の効果について調べてきました。社会保障と言うと年金や介護がイメージされがちですが、実は子育て支援や就労支援も社会保障の一部であり、これらの社会保障は日本ではあまり議論されてきませんでした。そこで、今まで見過ごされてきた若い人むけの社会保障の効果について研究し、博士論文を書きました。

子育て支援にも様々な支援がありますが、特に子どもの貧困に関することで言うと、まずは児童手当です。貧困の家庭にお金を配れば貧困が改善されるというのはわかりやすいと思います。もう一つは、保育です。現在の保育園は正規雇用の共働き家庭が優先的に入園でき、非正規雇用の母親が保育園を活用しにくい状況です。ただでさえ非正規雇用で貧しい家庭の母親が仕事に復帰できないことにより、さらに貧しくなってしまうという悪循環が生まれています。保育の供給量や質が高まって、貧困家庭の母親が保育を利用しやすくなれば、母親が働きやすくなり、家庭の収入が増えて、子どもの貧困が改善される訳です。

私自身の話に戻ると、最近は子どもが生まれたこともあり、子どもにとって良い支援とは何かをますます考えるようになりました。日本では保育の長期的な効果父親育児の効果について、研究がほとんど行われてきませんでした。そこで私は、どのような育児が子どもにとって効果があるのか、そもそも保育園に預けることがいいことなのか等も含め、政府のデータや自分で調査したデータを使って、保育の長期的な効果や父親育児の効果について研究を進めています。

もし、父親育児が良い効果を発揮するための諸条件が分かれば、日本のお父さんたちにとって参考になったり、お父さんたちへの支援の制度設計に役立てたりすることができます。またもし、保育が良い効果を発揮するための諸条件が分かれば、保育の質改善や保育政策の制度設計に役立てることができます。そのため、私の今の課題は、父親育児や保育の効果やその諸条件を明らかにし、世に広めて行くことなのです。

 

多方面に関わる研究内容

  • 次に、柴田先生の研究とSDGsはどのように関係していますか。

SDGsと私の研究を照らし合わせて考えると、関係するのは、1「貧困をなくそう」、4「質の高い教育をみんなに」、10「人や国の不平等をなくそう」ですかね。教育に関しては、幼児期の教育もそうですし、職業訓練も広い意味では教育に当たると思います。また、日本の子どもの貧困は、主には、ターゲット1にある「絶対的貧困」ではなく、「相対的貧困」なんです。相対的貧困は不平等の問題ですから、10番のゴールにも関連します。ゴール1のターゲットをよく読むと、「あらゆる次元の貧困」という言及があり、これに日本の相対的貧困が含まれると解釈することもできます。

 

社会が持続するためには子ども達に支援を

  • 持続可能な社会とはどのような社会だと思いますか。

日本社会の持続可能性について考えた時、まず思いつくのは政府の財政難と人手不足ですね。年金・医療・介護にお金がかかりますし、医療・介護では人手も足りていない。外国人労働者を受け入れようとしても、言語の問題や日本人の抵抗感がまだまだ存在します。AIの発展でいくらかは解決するかもしれませんが、それはあくまで可能性の話ですので、今後も財政難と人手不足は日本社会の持続可能性に関わり続けると思います。

今回のテーマに関して話すと、貧困問題を解決するためにはまず子どもにフォーカスを当てるべきだと思います。子ども期の貧困は、子ども自身の責任は全くなく(法的にも幼い子どもには責任能力がありませんから)、貧困の責任はまずは保護者にあり、間接的にはそのような保護者を生み出した社会にも責任の一端があります(そのため保護者は一定の条件を満たせば生活保護や職業訓練などの公的支援を受けることができます)。ですので、社会が解決すべき貧困は、まずは、本人の責任が全くなくて、社会の側からしか解決できない「子ども期の貧困」なのです。

また持続可能性、つまり長期的な視野で見ると、今の子どもが将来しっかり働けるようになるかどうかということがポイントになります。もし貧困家庭への教育支援などが不十分で、子ども期の貧困による機会不平等が放置されたままだと、貧困の子どもはスタート地点から不利を被ってしまうので、他の子どもと同じようにがんばっても、同じようにはうまくできません。すると、やがて「がんばる意欲」を失ってしまいます。その結果、学歴が低くなりやすく、働く能力も身につきにくく、将来も貧困になりやすいのです。今の日本社会でも、実際にそのような傾向がデータで確認できます。

今後、貧困家庭への教育支援などをもっと充実させることで、機会の不平等が小さくなっていけば、たとえ貧困家庭の子どもであっても、「がんばる意欲」を持ち続けやすくなり、自分の能力を十分に発揮しやすくなります。そうなればどの子どもも、将来、働く能力を身につけやすくなるため、将来の日本社会の持続可能性につながると思います(もちろん障害のある子どもにはさらに特別な支援も必要です)。そうなれば、政府の財政難や人手不足も、十分ではないにせよ、現状のままよりは改善されていくことでしょう。そういう意味で、子どもの貧困の解決は、社会の持続可能性につながると思います。

 

取り組むべきは「虐待の根絶」

  • SDGsのゴール1「貧困をなくそう」について、特に日本の子どもの貧困をなくすという観点で達成可能性はあるのか、また達成するためには何をすべきなのか、柴田先生の意見をお聞かせ下さい。

まず、ゴール1のターゲットを細かく見ていくと、途上国対象の目標が多いですよね。しかし、ターゲット2「あらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる」については、「子どもの相対的貧困」も対象になると思いますし、取り組むべき目標だと思う方も多いでしょう。

実現可能性を考えると、もし政府が十分にお金をかけることができるなら、実現可能です。貧困家庭にお金を配れば、数字上、「子どもの相対的貧困率」を半減させることは可能です。

しかし、もしもその給付金が子どもの生活や教育に使われないとなると、例えば親がパチンコにすべて使ってしまうとなると、「子どもの相対的貧困」の実質的な解決にはなりません。ですので、増税によって財源を作って、お金を貧困家庭に給付すれば、数字上の「貧困率の半減」は可能ですが、数字上の達成だけで意味があるのかと言われると疑問である、というのが私の考えです。

またもっと現実的なことを考えると、子どもの相対的貧困率(2015年13.9%)の半減(7%減)を、お金の給付によって実現するには、おそらく毎年約1~2兆円の予算が必要になります。ごく一部(7%)の子どもだけのために、1~2兆円規模の増税(消費税なら0.5%前後の増税に匹敵)をするとなると、世間から不満が出ますし、「給付されたお金が本当に子どものために使われるのか」という疑問も出るでしょう。ですので、数字上での貧困率半減は理論的には可能ですが、現実的にはなかなか難しいと言えるでしょう。

私が考える子どもの貧困の問題は、子どもにしっかりとした心身のケアがなされにくいために子どもの成長が阻害されやすいこと、また子どもへの虐待が起こりやすいことだと思います。ですので、ネグレクトや虐待をなくすために、ハイリスク家庭に対して、妊娠期から継続して家庭訪問を行ったり、良質な保育や教育を提供したりするためにこそ、お金を使うべきだと思います。

虐待をなくしても、「子どもの相対的貧困率」という数字そのものには変化がないかもしれないし、したがって「貧困率半減」にはつながらないかもしれない。でも、虐待がなくなれば、子どもたちは将来、より安定的に人間関係や家庭を築けるようになるでしょうし、より安定的に働けるようにもなるでしょう。そっちの方が、子どもたち自身の幸せにつながりますし、社会の持続可能性にもつながりますよね。だから私は、「貧困率半減」という数字上の目標よりも、「児童虐待をなくす」という実質的な問題解決のほうにこそ、フォーカスを当てるべきだと考えています。

 

様々な「生き方」を知る

  • 最後に、新入生に一言お願いします。

これまでの話の流れで言うと、「分かりやすい数字にとらわれずに、何がほんとうに大切なのかを考えよう」ということですね。子どもの貧困率半減は確かにいいことに聞こえますが、実現可能性を考えると予算等で難しい。ここで、分かりやすい数字にこだわるのではなく、日本社会で何がほんとうに問題なのかを考えると、児童虐待をなくすことの重要性に気づくでしょう。このように、分かりやすい数字に惑わされずに、ほんとうに大切なことは何かを考えよう、というのが新入生に伝えたいことです。

もう一つは、「広い視野で柔軟に考えよう」ということです。京大に来た時点でもしかすると広い視野を持っているかもしれませんが、広い視野で柔軟に考えることは、大学時代だけでなく、社会に出た後にも重要になります。社会がめまぐるしく変化していく中で、私たちは、働き方や生き方を柔軟に変える必要に迫られることも多いでしょう。生き方に迷った時にこそ、広い視野や柔軟な考え方が役に立つと思います。もし一つの考えしかできなければ、どうしようもない壁にぶつかった時には絶望するしかなくなってしまう。そういう意味で、「広い視野で柔軟に考える」ことは、根本的な生き方の部分で幸せにつながると思います。また京都大学の先生方は基本的にそういう理念を大切にしていますし、学生さんたちにも広い視野や柔軟性を実践している人たちはたくさんいます。そういう人たちと交流して様々な生き方を知っておくと、生き方に迷った時のヒントになるのではないかと思います。だから「京大でいろんな人と交流していろんな生き方を知っておく」ということが、新入生にいちばん伝えたいことですね。

 

インタビューをして

先進国では見落とされがちな貧困問題。しかし、日本でもその重要性に気づき、研究している人の存在にまず驚きました。話を聞いてみると、人手不足や財政難などとの関係が見られ、社会問題が相互に関連していることに気づかされました。問題の本質を見極められるように、広い視野を持って大学、社会で生きていこうと思います。(西本早希)

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