Goal7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」
土井 俊哉 教授(エネルギー科学研究科)
エネルギーについての研究というと再生可能エネルギーの開発や実用化に向けた改善など、発電技術に関することをイメージしがちなのではないか。しかしエネルギー問題は発電だけではない。発電、送電、省エネなどその幅は多岐にわたっている。エネルギー使用には抵抗によるロスが生じているが、超伝導物質は電気抵抗が生じない。超伝導を実用化させて抵抗0、エネルギーロス0を目指し、研究する土井教授に話を伺った。
―研究について教えてください。
研究している内容は「省エネルギー」です。電気を使う装置のエネルギー効率を良くする技術について研究しています。電気を流すと抵抗によってジュール熱が発生し、発熱します。これは電気エネルギーが熱となって無駄に消費されているということなので、電気抵抗が0に近い物質を使って製品をつくるとエネルギーの利用効率が良くなります。これを目指し、電気抵抗が0になる物質を実際に使えるようにするための研究、電気抵抗が0になる物質をうまい具合に製品にしようという研究を今はメインでしています。
この研究の面白いところは超電導現象ですね。まず電気抵抗が0になるという現象はびっくりするくらい複雑で不思議です。電流は実際には、導線の中で電子が動いて流れているわけですよね。電気抵抗っていうのはその電子が原子に衝突することで発生します。電子の動きが邪魔されてその運動エネルギーが無駄になっているわけです。電気抵抗が0になるということは簡単に言うと衝突していないということです。つまり混雑している人ごみのなかでボールを投げても誰にも当たらないという現象なわけです。すごく不思議ですよね。なぜこんなことが起こるのかすごく興味がわきます。今まで小・中・高で習ってきた物理現象とは全く違った現象、非常に面白い、変わった、現象がおきるので面白いです。
―研究するモチベーションはなんですか。
超伝導物質は電気抵抗が0になる、ということがとても不思議だったので研究してみたいと思い、研究を始めました。若いころは興味が中心でしたが、今は年齢が上がりいろんなことを見聞きする中でやはり世の中全体が良くならないといけないと考え、興味もありますが将来的にその研究が役に立つかどうかも考慮して研究テーマを選んでいます。役に立たないことをやってはいけないというのは問題だけれども、興味だけ、面白いだけで研究しているだけではなくて、いつかは役に立つということをやるべきではないかと思います。私は工学部出身で、工学部は世の中に貢献するということをややダイレクトに意識している学部なので、今やっている研究がうまくいけば5年後くらいから世の中の役に立つようになりだして、すごく上手くいけば50年後にはすごく世の中の役に立つのではないかと思っています。
―京都大学で研究する強みは何ですか。
京都大学は中にいる先生がものすごく努力してものすごく勉強してものすごくいろいろなことを知っている一流の先生方ばっかりということですね。ノーベル賞候補もたくさんおられますし、皆さんがとっている授業の先生が急にノーベル賞受賞するなんてこともありえるかもしれないですね。難しいことを知っているので皆さんが興味をもって質問すればネットに載っていないことや本に載っていないことなど、ふつうは知ることができないようなことを知ることができる、ここがほかの大学とは違うと思います。みなさんにとってはそういう意味では非常に良いところに入られたと思います。また、規模が大きいのでどんな分野に対してもだれかその分野を知っている先生がいる、それもいいところですね。
―持続可能性、SDGsについてどのようにお考えですか。
「持続可能」っていうのは壊滅的におかしくはしない、つまり元に戻せるということですよね。こういった大きな話を考えるのに熱力学っていうのは適した学問なのではないかと思います。熱力学では閉じた系のなかでは必ずエントロピーが増大するといわれますが、地球は「閉じた系」じゃないですよね。太陽からエネルギーが入ってきて宇宙空間に放出するから「閉じていない」わけです。太陽から得るエネルギーをうまく使い、変化した分を宇宙空間に捨てることができれば、一見不可能に思われる「持続可能」も実現する見込みがあるのではないでしょうか。
SDGsを含め最近の環境問題に関して内向きでどんどん縮こまっていこうとする節約志向を感じますが、そういう志向ではなくて、知恵を絞って、サイエンスとテクノロジーを活用して、発展させて、駆使すれば環境問題も解決できる、と考える方がいいのではないでしょうか。わりとそういうことに関しては楽観的に思っていますね。原理的には可能なことなので、実現できると思います。
―新入生に向けてメッセージをお願いします。
最近は物事を何でもシンプルに考えすぎなのではないかと思います。社会も自然もシンプルではなく恐ろしく複雑です。シンプルに考えるということは、その人が細かいと思うことを無視しているということです。しかし、細かいと思われることも実際には無視してはいけないことが多いものです。そのため、物事を正しく理解しようとするとき、シンプルに考えるということは正しいやり方ではないのではないかと思います。ものを考える時は、いろいろなことを考えて、もっと現実は複雑だということを理解して、いろいろなファクターを無視せず全部影響があると知ったうえで、正しく理解することを心掛けてほしいですね。単純に考えるということ自体を間違っている、とはいえないかもしれないけれど、現実とは多少なりとも違ってくると思います。例えば、ある現実の現象をシミュレーションしようと思うと計算に組み込むべきファクターの数は膨大になります。しかし、計算モデルに全てのファクターを組み込むことは実際にはできないので、幾つかのファクターは無視されます。また、人の頭で考える時、膨大な数のファクターを頭の中で動かして考えるのは難しいため、大抵の場合は1つか2つ程度のファクターに注目して、現象を単純化して考えます。だから、現実とモデルの間には、大きいか小さいかは別にして、必ず差異が存在します。皆さんには、そういうことをちゃんとわかっておいてほしいなと思います。これを実践するには、たくさんのことを考えなければならないし、互いに影響しあって物事がすごく複雑になるので非常に難しいかもしれません。けれども、社会も自然もそんなに単純ではありません。現実は複雑で難しいということを忘れないでほしいですね。
インタビューを終えて
節電も大切だが、節電せずに電気を使ってもいい方法が存在し、理論的には実現不可能ではない。理論的に実現できることはいつか実現できる、そう力強く語る土井先生がとても印象的で、環境について考える時に自分のそして人類の贅沢を実行できるようにしようという姿勢が大変魅力的だった。窮屈にならずに自由に発想を広げる、言葉でいうのは簡単だが実行するのはやはり難しい。先生の言葉に確かにそうだと頷いていた私もしばらくすると顔をしかめて温暖化のニュースを聞いている。指摘されている問題に立ち向かうときにその中で尚贅沢できるように解決しようという心の広さが今後必要なのではないだろうか。(白井亜美)