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Goal08「働きがいも経済成長も」(山口真広)

2020.04.16

学び 2020年新入生リーフレット

こんにちは、エコ~るど京大・白井亜美と申します。今回、このSDGsインタビューのテーマは「身近な多様性」です。幸か不幸か私たちは本当に一部しか世界を認識できません。だから考えも行動も「不十分ではないか?」という指摘から逃れることはできません。ですがそれでも「自分は一人前のひとりの人間だ」と思って、毎日生き、いろんなことを考えるのではないでしょうか。私たちもまだまだ未熟ですが、隣にいる人がどれくらい自分と異なる見方を持っているか、ここに少しでも触れていただけたら幸いです。

 

 

インタビュー日:2019年12月17日

回答者:山口真広(京都大学大学院農学研究科修士課程1回生/エコ~るど京大)

 

 

Q:Goal08「働きがいも経済成長も」の中で興味のあるテーマは何ですか?

 

現在、今までの働き方はやりすぎでそれを改善していこうとする動きがあります。働き方を改善しようとする姿勢は嫌いではありませんが、残業が少ないとか特定のことだけが正しいとされる流れになりつつあるように感じています。まるで弱者のフリをして正しそうなことを押し付けてくるみたいでちょっと怖いと思います。

仏教の臨済宗と曹洞宗を引き合いにださせてください。この二つはどちらも禅宗ですが、その修行観は大きく違います。臨済宗では四六時中修行して必死に公案を考え抜いて悟りに至ることが求められるそうで、人が寝静まっている時に一人起きて瞑想することが美徳とされます。一方曹洞宗ではこういった抜け駆けはだめで、みんな揃って修行することを求められるそうです。この二つの修行観はどちらも大切であり、安易に否定されるべきものではないでしょう。

働き方をこの修行観の違いだけから見ると、今までの必死に働いたり残業頑張ったりという働き方は臨済宗的で、新しく言われている残業を減らすとかいうのは曹洞宗的かなと。もちろん臨済宗が高圧的だとか、曹洞宗が弱っちいとか思っているわけではなく、単純に働き方と修行観だけを比較したときにそう分けて見てしまうという話です。働き方を考えるときに中心となる問題点は、「社会的弱者」という強い言葉と一緒に新しい働き方にシフトし、固執して、他者への押し付けが始まり、また同じような問題が生じるといった鼬ごっこが起こるような気がします。それに自分はものの見方が臨済宗よりなので安直に今までの働き方が否定されると少し自分の価値観も否定されたようで嫌な気持ちになります。

 

 

Q:実際に今までの「臨済宗的な」働き方が良いとされているあり方では立ちいかなくなってきている現状があって、今の規範の変化が起こっているように思えるのですが、想定している理想のようなものをもう少し教えてください。

 

一番抽象的に考えるなら、全員が自分と他人を分けて考えられるというのが一つではないでしょうか。例えば残業は0にしようという流れに対して、「あなたたちはそう考えるのですね、でも僕たちは残業していてもそれはかっこいいと思う」、と意見が違うことを認め合うこと。ですが今の社会では僕も含めてできていない人が多いと感じています

 

 

Q:SDGsに取り組むことが流行になっているなかで山口さんはどのように関わっていこうとしていますか?

 

SDGsとはちょっと距離を置きたいと思います。SDGsを否定したいとか覆したいとか考えているわけではないですが、ただSDGsがこのベクトルのまま進んだら、SDGsは自分の染みついた価値観とかなりずれた方に行ってしまうイメージがあります。SDGsは正しいことを言っていると思うけど流れには乗れない、SDGsという川に対して自分は広がるデルタの端に居て自分の流れる方向を修正していく感じかなと思います。

 

 

Q:それは先ほど話してくださったようにSDGsをはじめ今の世の中の流れが自分がルーツにもつ考えに沿わないと感じるからでしょうか?

 

それもあると思います。働き方改革の流れは曹洞宗的といったけどSDGsは浄土真宗的かなと感じます。ちゃんと仏教を勉強したわけでもないのに恐縮ですが、「皆さんこれを考えれば世界がよくなりますよ」というSDGsの解釈のされ方と「念仏唱えれば往生できる」という浄土真宗の建前に近しいものを感じてしまいます。僕は器が小さい上に、必死に目的に向かうのが一番だとつい考えてしまう性格をしています。だからお経を唱えて願うより、必死に修行するほうがかっこいいと思いますし、「SDGs取り組んでいますとアピールする暇があったらその間もっと頑張れよ!」とも思ってしまいます。

 

 

Q:最初に質問したときに今の流れを「弱者のフリして正しそうなことを押し付けてくる」と表現されましたが、この言葉の意図について教えてください。とらえ方によっては暴力的にも聞こえますよね。例えば誰が自分を弱者と称しているように山口さんには見えるのですか?弱者の「フリ」とはどういう意味でしょうか?

 

「弱者」は本当に苦しんでいる人たち、本当に助けを求めている人たちです。「フリ」をするというのは実際にはそう苦しんでいるわけでもなくネット上で実名出さずに言いたいこと言うことや、自分の文脈で他人の苦しみを解釈して「社会的弱者の声に耳を傾けていますよ」、「正しいことしていますよ」といって大きい顔をすることです。そういう風潮はどことなく自分にとっては生きづらく感じます。

 

 

Q:SDGsを否定しているわけではないんですよね。では「弱者のフリして正しそうなことを押し付けてくる」こととSDGsに取り組むことはどう違っているのでしょうか?

 

まず大前提として浄土宗でも臨済宗でも曹洞宗でもどの宗派の立場に立ったとしても、人の幸せを大事にされているのに変わりはないと思います。同じようにSDGs的な考え方でも自分のような考え方をとってもこの前提は普遍的なものだと信じています。正解、不正解を分けず、全部OKというのが僕の理想の一つです。そう考えたときにSDGsはただやっているかどうかに意味が置かれがちに見えます。でも自分の理想は、自分の胸の中の暖かいものに引っ張られて人に何かをして、その人が笑って自分も笑って、はい終わりというものです。本来は行動が(SDGs的に)正しいか正しくないかはどうでもよくて、ただそこに慈悲、世のため人のためっていう感情のようなそれっぽい何かがあれば十分。それがたまたまSDGsといった世俗的なブランド価値になります。

 

 

Q:最後に、Goal01を一言でいうと何ですか?

 

「学校の先生」

 

SDGsで提言されていることは確かに社会システムその他を持続させることに繋がるであろうことは認めます。しかしこれが広まる過程で個々人の意識の中にあるのは、「新しい常識に従う」や「社会の流れにのる」というようなものであるように感じます。この点ではSDGsが叫ばれる前、大量生産・大量消費の時代と何ら変わりないのではないでしょうか。社会の常識として捉えたものを人に話す時どうしても学校の先生のように巧言令色の雰囲気を感じ、反抗したくなります。本当に人のためにと考えるなら、親が子供にするような顔をして欲しいですね。

 

 

 

(以下白井よりコメント)

ありがとうございました。

最初に「弱者のフリして正しそうなことを押し付けてくる」と聞いた時には少々驚きましたが重要なのは「弱者」の部分ではなくて「押し付ける」の部分だったのだなと気づきました。確かにこれだ!という解決方法、正解を探し当てたと思ったとき、その良さを一心に主張してしまうような気がします。前に思っていたこと、相手の主張、考えを変える難しさを振り返ることをつい忘れてしまうように思います。働き方に対して抱える問題が鎌倉仏教禅宗の中にもみられていて、人間1000年たっても似たような課題を持ち続けていることに興味深さと少し呆れるような心地と千年前の日本人たちの心に共感できてしまったようなワクワク感を覚えました。臨済宗も曹洞宗ももちろん浄土宗もつぶれることなく現在に残っています。お寺の数、僧侶の数、本山の数は宗派の人気具合やスタイルに依ると思いますが、たとえ少数派であっても否定せず残せているところは見習うことができるのではないでしょうか。

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