近年地球温暖化による気候変動が容易に認識されるまでに進行し、その原因として、二酸化炭素に代表される温室効果ガス排出がほぼ確実視されています。 二酸化炭素排出を如何に抑えるかが、世界にとって喫緊の問題になっています。車の排気ガスは、二酸化炭素排出の最も身近な問題の一つです。 実際、我が国の運輸部門の二酸化炭素排出量は、総排出量のほぼ4分の1を占める約2億5000万トンの膨大な量にのぼっています。 実は、ガソリン車の効率はあまり高いものではなく、20%に達していません。これは、ガソリン車が排出する二酸化炭素のうち、実際に車の走行に必要なエネルギーを生み出すために排出されたものが20%以下で、残りの80%以上が無駄に排出されていることになります。 ハイブリッド車は、減速時等にエネルギーを電池に回収し走行するときに活用する、非常にすぐれたシステムです。ハイブリッド車の効率はガソリン車の2倍程度、35%前後に上がります。 二酸化炭素排出削減に非常に効果的ということができます。家庭用電源で充電ができるプラグインハイブリッド車へと、さらに発展しつつあります。
電気自動車は、走行時には全く二酸化炭素を排出しませんが、これは発電所での二酸化炭素排出について検討する必要があります。 日本の発電量の最も大きい割を占める火力発電の効率は、平均40%を超えています。最新の設備では、60%近い高効率のものもあります。 また火力発電に次いで発電量の大きい原子力発電は、発電時には二酸化炭素を排出しません。二酸化炭素排出を抑制するため、今後原子力発電の利用が進むことが予想されています。 また、水力発電も発電時には二酸化炭素を発生しません。将来的には、さらに太陽光発電、風力発電などの新エネルギーも活用されるでしょう。
二酸化炭素排出削減に有効な進化の先に電気自動車が位置づけられると思います。電気自動車は航続距離やコストの面などで課題が残っていますが、これはすべて電池の問題ということができます。 軽くて大きなエネルギーを取り出すことができ、繰り返し充放電しても性能が落ちない高性能な二次電池が必要です。もちろんハイブリッド車についても、電池に課せられる条件はまったく同じです。 ハイブリッド車並びに電気自動車の発展のカギは、電池が握っているということができると思います。さらに二次電池は、自然エネルギーの利用にも欠かせません。 風力や太陽光での発電は、出力が自然現象に左右されて大きく変化します。これをそのまま送電することはできません。 いったん二次電池の充電に用い、そこから安定した出力として取り出すことが必要です。 また、電力使用の季節変動、時間変動を調節し、余った電力を蓄え足りない時に供給する電力平準化にためにも、二次電池が重要な働きをします。
リチウムイオン二次電池は、小型軽量で大きなエネルギー容量を持っています。また何回も繰り返し充電して使用することができます。 リチウムイオン二次電池は携帯電話の電源として広く使われて、もうすでに高い性能を発揮しています。 しかしこれを電気自動車や電力平準化等に利用しようとすると、このとき大量のエネルギーに対応するため、電池が大きくなり、電池材料のコストが大きな問題となってきます。 例えば、現在、正(プラス)極にはコバルトの酸化物が広く使われており、良い性能を発揮しています。携帯電話に入っているリチウム電池はこれを使っています。 しかしコバルトは高価な希少元素で、大量に使うところには適していません。ずっと安価で大量に産出する元素を使う必要があります。
図に放電時と充電時のリチウムイオン二次電池を模式的に示します。 電池を使っている時、すなわち放電時は、リチウムイオンが負(マイナス)極から正(プラス)極に移動します。充電している時は、逆に正極から負極に戻っていきます。 これを繰り返します。しかし、リチウムイオンが負極から正極に移動するといっても、単に移動しているというわけではありません。 放電時のリチウムイオンは、負極での化学結合を切って負極から出て行き、正極で新たに化学結合をします。充電時はこの逆で、正極での化学結合を切って負極で化学結合を作ります。 電極では、非常に厳しい化学反応が常に起こっているわけです。電極材料はこの過酷な条件に耐えうるものでなければなりません。何でもよいというわけにはいきません。
X線の回折を利用して、結晶構造解析により、結晶中の原子の位置を正確に求めることが可能です。私たちは、結晶構造解析を利用して、リチウムイオン二次電池の電極材料の解析を行っています。 結晶構造解析は一般には、より完全な単結晶を使ってX線の回折を測定し、より精確に原子の配置を求めていくのがその研究の方向です。 しかし単結晶を使ったのでは、実際に材料が使われているときの原子の配置を明らかにすることはできません。 私たちはそうではなく、実際に使われている状況での原子の配置を解き明かしていくことに挑戦しています。そこにこそ材料の生の姿を見ることができると考えています。?当然の事ながら、完璧な測定は期待できません。悪い測定条件を如何に克服していくか、データ処理のための独自のプログラムを開発し、解析を行っています。 電極材料の構造解析を進めることにより、最近、原子のレベルでリチウムイオンの挙動がわかるようになってきました。 材料の構造とリチウムイオンの挙動の関係を明らかにすることにより、今度は、より性能の高くなる電極材料の構造を設計していきます。これが材料設計です。 設計した材料を合成し、再び構造解析を行い、さらに構造設計をする、これを繰り返すことにより、より優れた材料の開発に挑戦しています。