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目を配ること、思いをつなぐこと/吉川 左紀子【京都大学こころの未来研究センター】(No.6)

2010.11.28

学び

たぶん、2006,7年ごろだったと思う。当時の研究室の窓から外を眺めると、向かいの建物のすぐ横に3メートル四方くらいの植栽用スペースが目についた。その区画の4辺に沿ってサツキが植わっている。おそらく中央部分は、もともと芝生のような草地になっていたようだった。「ようだった」というのは、私が見たとき、そこは背の高い草が生い茂って、草ぼうぼうの状態だったからである。その、ほったらかしの野放図な一角が気になって、毎日、窓から眺めていたある日、「そうだ、あそこに花を植えてみようか」と思いたった。勝手にそんなことをしてもいいかな、と一瞬迷ったが、「草ぼうぼう」よりは誰だって小ぎれいな花壇のほうがいいだろう。

というわけで、草取りを始めた。やってみると、花を植えられる状態にまでなるには相当な時間がかかることが分かった。まず、繁茂している草の下からでてくる根の長いこと強いこと。根のまわりの土を掘って引っ張っても、びくともしない。根を両手でつかんで綱引きのような具合で引っ張り、尻もちをつきながら悪戦苦闘した。そしてようやく、花を植えられるというところまでたどりついた頃、仕事が忙しくなって、「荒地の花壇化構想」はすっかり私の頭から消えてしまったのだった。

そして、次の年の春。私が草取りをしたその場所に、色とりどりのチューリップが咲いたのである!誰かがそこに球根を植えたのだ。「ここが花壇だったらいいのになあ」と、眺めていた誰かが、ほかにもいたのである。だれが植えたのか今も謎であるが、その後も毎年春になると、チューリップが花を咲かせている。夏はどうしても草が伸びるから、いつもこざっぱりとした空間というわけにはいかないが、私が最初に見たときのような野放図な状態に戻ることはない。そこは、「花を楽しむ場所」になったのだ。
私の今の研究室は、川端通り沿いにある。前を流れる鴨川は、観光都市の中心を流れる川とは思えないほど、自然なたたずまいを保っていて、荒神橋から北山を眺めたときの景色は、四季折々に独特の味わいがあって美しく、いつ見ても気持ちが晴れ晴れとする大好きな場所である。

鴨川は、護岸工事はしっかりしているが、コンクリートでがっちりと固めるような無粋な感じではなく、川底の水草や川岸の草むらなどはけっこう自然のままになっている(ように見える)。なので、夏場になって草木の成長が早くなると、草が伸び、見たところちょっとむさくるしい景色になることがある。そうした時期に、たまたまタクシーに乗ると、「どうして京都市はもっと草刈りをしないんですかね・・」と運転手さんがぶつぶつ文句を言ったりしている。「草が伸びすぎですよね。観光都市京都としては格好悪いですよね」などと話を合わせながら、何度か橋を渡るうちに、じきに草刈りが行われてまたすっきりした風情を取り戻す。

「あんなところで水遊びをして、ああ気持よさそう。」「今年のもみじの色はどうかな」「あ、北山に雪が積もって、山並みの重なり具合がきれいだ・・」。京都に住み、鴨川沿いを歩く、多くの人のこうした日々の「思い」が、長い時間をかけて受け継がれ、今の景色が作られてきた。中には、川べりをコンクリートで固めたほうがいい、という人もいたかもしれない。でも大多数の人の思いは、そうではなかったのだろう。草が伸びたら適当に手を入れながら、この四季の変化、この眺めの美しさを楽しみたいのだ。
地球規模の環境保全も、京都の環境保護も、キャンパス内の環境美化も、おそらく人がしていること、しなければならないことは同じなのではないだろうか。まわりの自然に目を向け、「こうなったらいいな」と何かを思い、その思いをつなぐこと。

人が何も思わなくなったとき、自然は荒れてゆく。

( 『京都大学環境報告書2010』 より )


著書: 「よく分かる認知科学」ミネルヴァ書房(編著)、「こころの謎・kokoroの未 来」京都大学学術出版会(分担)

受け持たれている講義: 「こころの科学入門I」、「教育認知心理学演習I、II」等

趣味: 絵を観ること。映画を観ること。

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