文責・近藤陽香
複雑な生態系を少しでも理解し、さまざまな自然を徹底的に究明したい京大!バイオスクープ。今回のご依頼はこちら「京大のシンボル、クスノキを食べる虫を教えてください!」
クスノキを食べる虫は意外とたくさんいますが、今回はアオスジアゲハをご紹介します!
アオスジアゲハ
チョウ目アゲハチョウ科アゲハチョウ亜科アオスジアゲハ属
学名:Graphium sarpedon
分布:本州、四国、九州、南西諸島
寄主植物(幼虫の食べる植物):クスノキ科植物(クスノキ・タブノキ・シロダモ・ニッケイ・イヌガシ・ハマビワ・アブラチャン・ゲッケイジュ・バリバリノキ・クロモジなど)
場所:時計台前のクスノキなど
file1のクスノキのところでも述べられている通り、クスノキはショウノウ(カンファ―)という、虫除けにも使われるような成分を持っており、大抵の虫はこの葉っぱを食べることができません。
とはいえ、虫の方も美味しそうな葉っぱを放っておいてはくれません。
アオスジアゲハの他にもクスサンやクスノハマキホソガなど、たくさんの虫がクスノキを食べることで知られていますが、京大ではあまり見かけないですし(見かけたら教えてください)、知名度はアオスジアゲハがダントツだと思うので、アオスジアゲハについて語りたいと思います!
へぇ☆「成虫の飛翔能力はすごい」
速度は測れなかった&調べても正確な速度に関する記述は見つからなかったのですが、アオスジアゲハの飛翔能力は俊敏性などにおいて他のチョウに比べとびぬけています。
素早く飛ぶ様は稲妻にも例えられるほどで、寄主植物が大木となる木だからか、とても高いところを飛んでいることも多いです。驚かせると高いところへ飛んで行ってしまって見失うこともしばしば。
春~夏頃に、黒っぽく、かつ鮮やかに輝く青色が視界を横切ったら、アオスジアゲハかもしれません。
ちなみに、水たまりの水を飲みに地面に降りている様子もよく見られるので、案外京大構内の道路の真ん中などの方が見つけやすいかも。
とまっているところを撮れました。羽は開いているときの方がキラキラして綺麗かも。
へぇ☆☆「幼虫はクスノキを食べて育つ」
クスノキは常緑樹ですが、春先に落葉し、赤い新芽を出します。成虫は、その赤くてやわらかくておいしそうなクスノキの新芽に卵を産み付け、卵から孵った幼虫は葉っぱを食べて成長します。
(※アオスジアゲハはクスノキ以外も食べますが、私はクスノキ以外の木でアオスジアゲハを探したことがないのでクスノキについて書いています。また、クスノキは街路樹としてもよく植えられており、京大構内にもたっくさんあります。)
クスノキの新芽についたアオスジアゲハの卵。大きさは1㎜くらいで、肉眼でも十分見えます。外見はナミアゲハの卵とよく似ており、外側が固く、葉の接着面だけ少し平らになった球形をしています。
孵化が近くなると、このようにお顔が見えます!目も口もわかる!カワイイ!
こちらは、卵から孵化して一日以内の一齢幼虫。顕微鏡ごしに撮ったので毛やトゲもしっかり見えますね。葉っぱにある茶色いシミのような部分は固い表皮を残して裏側だけはむはむした跡で、横の部分は全部かじった跡です。カワイイ!この頭の方に3対、お尻に1対あるトゲをよく見ておいてください。
幼虫は、孵化直後が一齢(いちれい)、一度脱皮すると二齢…というように脱皮するたびに齢を重ねていきます。
ところで、クスノキは照葉樹の一種であり、葉っぱの表面が発達したクチクラ層(ワックスなどからできた層で、テラテラと光を反射します)に覆われています。何が言いたいかというと、めっちゃ固いです。なので、お母さんアオスジアゲハはまだクチクラの発達していないやわらかい新芽に卵を産み付けてくれるんですね。
そして、幼虫は大きくなってくると、だんだん固い葉っぱも食べられるようになってきます。
こちらはおそらく三齢の幼虫。色が緑に近づき、アオスジアゲハらしい胸のあたりがぷっくりしたフォルムがよくわかりますね。また、頭側のトゲが全部黒になっていますね!左のピンボケしているのは指です。大きさの参考にしてください。
大きくなった幼虫には頭の方から3対目のトゲの間に黄色いラインが見えるようになります。
うっすらとラインの見え始める四齢幼虫。トゲの根本が目玉模様っぽくなってきてます。カワイイ!
ラインがはっきりしてきた五齢幼虫。これぞアオスジアゲハの幼虫!といった見た目!
さて、この幼虫のトゲとお尻を見てほしいのですが、一齢の時から、トゲの本数とお尻の先だけ白っぽく、お尻のトゲだけ白くて先が黒いのは変わりませんね。一齢の時は体に対してトゲが大きかったですが、そんなトゲも五齢になるとトゲが目立たないほどに小さくなって…!カワイイ!!
皆さんも、アオスジアゲハの幼虫を見かけたら、トゲやフォルムにもぜひ注目してみてくださいね。
アオスジアゲハの前蛹(蛹になる直前の幼虫)です。透き通った緑色が宝石もかくやといった美しさ。ここから脱皮すると蛹になります。
アオスジアゲハの蛹。このラインの入った模様が美しいですね。頭の方にあるトゲがカワイイ!
へぇ☆☆☆「幼虫や成虫の翅の色は日光で変わる」
アオスジアゲハの幼虫は緑色、成虫の翅のスジ模様は水色ですが、光を当てずに育てた幼虫は黄色になるそうで、成虫も、羽化後光に当てていないものは薄い黄緑色なのだそうです。
光で色が変わるなんて面白いですね。
参考文献の「アオスジアゲハの色調べパート5」を見ていただくと、可愛い黄色の幼虫が見れます…!
いかがでしたか?京大近辺のアオスジアゲハは、この記事が公開されるころにはおそらく大きめの幼虫~蛹の頃くらいだと思われます。
幼虫は、木のひこばえ(根本付近から生えてくる若芽)が、成虫は水たまりがよく見つかるポイントです!
飛び回る成虫やトゲの可愛い幼虫を、ぜひ探してみてくださいね。
参考文献
昭和化学株式会社 安全データシート(SDS)(最終閲覧2023/7/12)
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/03103250.pdf
芋活.com イモムシ・ケムシ図鑑 アオスジアゲハ(最終閲覧2023/7/12)https://www.imokatsu.com/imo-aosujiageha.htm
一般社団法人日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&A 「葉のワックス、クチクラの厚さは生育環境で変わるのか」(最終閲覧2023/7/12)https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4242
井原愛佳、三谷京子 「アオスジアゲハの色調べパート5」2015/9/27 (最終閲覧2023/7/13)https://www.tsukuba.ac.jp/community/students-kagakunome/shyo_list/2015/schc6.pdf