文責・近藤
あけましておめでとうございます!
複雑な生態系を少しでも理解し、さまざまな自然を徹底的に究明したい京大!バイオスクープ。
新年最初のご依頼はこちら「酵母ってどこにいるんですか?」
新年といえば、お屠蘇をいただいたり、お雑煮やおせち料理に味噌や醤油、お酢、料理酒を使ったりと酵母のお世話になった方も多いと思います。
調味料とお酒の他にも、パンやお漬物など、様々なものを作るときに必須となる「酵母」。普段からめちゃくちゃお世話になっていると思うのですが、そんな酵母について、皆さんはどのくらいご存知でしょうか。
場所:もうこたえちゃうんですけど、土の中や水の中、植物の葉・花・果実の表面、動物の皮膚や消化管など、あらゆるところに酵母がいます。特に花や果物などに多く生育しているそう。この写真は農学部総合館横のホトケノザの葉っぱについていた酵母です。(酵母じゃないのも一緒に写り込んでます。)
へぇ☆「一種類ではない」
そもそも「酵母」という言葉は、どのくらい広い範囲を指す言葉なのでしょう?「犬」「猫」くらい?それとも「カエル」「カメ」ぐらい?いいえとんでもない。酵母というのは、「菌類のうち生活環の一部に単細胞である時期があるもの」をさします。
一種類どころか、門もまたいでいます。
「門」をまたぐということはどういうことかピンとこない人も多いと思うので、とりあえず、酵母の代表としてモデル生物にもなっているSaccharomyces cerevisiaeの分類を見てみましょう。
学名:Saccharomyces cerevisiae
ドメイン:真核生物 Eukaryota
界:菌界 Fungi
門:子嚢菌門 en:Ascomycota
綱:半子嚢菌綱 en:Hemiascomycetes
目:サッカロミケス目 en:Saccharomycetales
科:サッカロミケス科 en:Saccharomycetaceae
属:en:Saccharomyces
種:en:cerevisiae
人間は「真核生物ドメイン、動物界、脊索動物門、哺乳網…」なので、「脊索動物門」なら、カエルや魚、鳥どころか、ホヤさえ一緒のくくりです。ホヤと一緒って(笑)
というか、その上の「界」は五界説に基づくと植物界、動物界、菌界、モネラ界、原生生物界の5つしかないので…
そのくらい、「酵母」という言葉は広いんですね。
へぇ☆☆「アルコール発酵と酵母」
高校で生物を習った人は耳タコでしょうから読み飛ばしてもらって構いません。
そもそも、「発酵」というのは、「有機物を分解してエネルギーを取り出す仕組み」のひとつで、アルコールはその副産物です。
有機物の分解でエネルギーを取り出す、と聞くと何で分解でエネルギーが?と思うかもしれません。直感的に説明するなら、これは「燃やす」こと、とも言い換えられます。
木を燃やすと、熱と光を出しながら二酸化炭素と水蒸気になりますよね。それと同じで、私たちも体の中で有機物(糖など)を二酸化炭素と水にまで分解していて、燃やした時には熱や光として出ていくこのエネルギーを、あの手この手でいい感じに使いやすい形にしています。
その方法はいくつかあるのですが、基本は、酵母も我々も
C₆H₁₂O₆(糖)+6O₂(酸素)⟶6CO₂(二酸化炭素)+6H₂O(水)
という、酸素を使った方法を使います。
ですが、酸素が少ない時などには、別の方法を使います。そのひとつが「アルコール発酵」。式にするとこうです。
C₆H₁₂O₆(糖)+6O₂(酸素)⟶2C₂H₅OH(エタノール)+2CO₂(二酸化炭素)
エタノールというのはアルコールの一種で、お酒で「アルコール度数」とかって書いてある「アルコール」のことです。
つまり、酵母は、私たちがご飯を食べて酸素を吸って出すものを出すのと同じ感覚で、アルコールを作ってくれる存在ということなんですね。
そして、パンづくりの時には、この「二酸化炭素」の方が大切になります。パンのたねの中でこの二酸化炭素ができることで、たくさんの気泡ができてパンが膨らみ、ふわふわになります。
へぇ☆☆☆「酵母の改良」
酵母は、その辺にいます。でも、今使われている酵母の多くは、長い間をかけて選び抜かれて育て上げられたものです。
先ほど、酵母は「私たちがご飯を食べて酸素を吸って出すものを出すのと同じ感覚で、アルコールを作ってくれる」と書きましたが、酵母だって酸素を使った方法を使えるので、酵母によっては、酸素がたくさんある時にはわざわざアルコール発酵を行わずに酸素を使う、つまりアルコールを作ってくれなくなるものもいます。
そもそも、「アルコール消毒」の言葉や、お酒を飲みすぎると人間でも死んだりすることからわかるように、量によってアルコールは毒になります。(まあ、どんなものも量によって毒になりますが…)これは酵母にとっても同じなので、アルコール濃度が上がると酵母は死んでしまったりします。さらに、特に醤油作りの時には、塩分濃度が高い環境でも生きていける必要があるなど、様々な過酷な環境でもめげずに増えてくれる酵母でないと使えないのです。
さらに、スピードも必要とされます。パンの酵母にはパンを膨らませるための二酸化炭素を、お酒の酵母にはアルコールを、できることならとっとと作ってほしいですよね。でないとパン屋さんの朝起きる時間がもっと早くなり、お酒の発酵時間も長くなってしまします。
そして、酵母も生き物ですし、原料のパンのたねやお米、大豆には糖以外ももちろん含まれているので、アルコールと二酸化炭素以外にも副産物が作られます。これが人間にとって毒になるものや、まずい、くさいと感じられるものであれば使えません。逆に、おいしい、いい香り、と思うようなものを一緒に作ってくれるものは重宝されます。
他にも、一緒に使う他の微生物との兼ね合いや、色など、様々な観点から選び抜かれ、目的別に育種されてきた結果が、現在も様々な場所で使われている酵母たち。
お米にも「コシヒカリ」「農林22号」「ゆめぴりか」などたくさんの品種が作られているのと同様、酵母にも様々な品種があります。
「日本醸造協会」という、醸造用酵母の開発と製造・販売を行っている協会もあるので、もし酵母に興味がわいたら、この辺を見てみても面白いかもしれません。
いかがでしたか?今後お酒やパン、調味料の「すせそ」、そして花や果実などを見たときは、ぜひ酵母たちにも思いをはせてみてください。
参考文献
酵母とは 酵母とともに生きる 第一酵母(最終閲覧2024/1/3)
https://www.daiichikobo.com/hpgen/HPB/entries/97.html#:~:text=%E9%85%B5%E6%AF%8D%E3%81%AF%E3%80%81%E5%9C%B0%E7%90%83%E4%B8%8A%E3%81%AE,%E3%81%AB%E3%82%82%E3%81%99%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
実は味の決め手?日本酒造りに使われる「酵母」を学ぶ(最終閲覧2024/1/3)
高島 昌子 酵母の同定に関する最新情報(令和元年版)多様性データの継続的更新が微生物生態学に貢献する(最終閲覧2024/1/3)
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1218
第一学習社 六訂版スクエア最新図説生物 2018年3月10日改訂六版発行