信州大学は構成員約14000人、延べ床面積41万平方メートルの大学である。 長野キャンパス(教育学部)、長野キャンパス(工学部)松本キャンパス(人文学部、経済学部、法曹法務研究科、理学部、全学教育機構、内部部局)、 上田キャンパス(繊維学部)、南箕輪キャンパス(農学部)の5キャンパスからなり、各キャンパスは長野県内に点在している。
●1、ISO14001認証取得の展開
信州大学では工学部からISO14001の認証取得の取り組みが始まり、それが各キャンパスへと波及していった。その経過を以下の年表に示す。
1998年 工学部環境機能工学科設置
1999年 工学部全学科を対象とした環境調和型技術者育成プログラムの検討に着手
2001年 工学部全学科を対象とした環境調和型技術者育成プログラムの運用を開始
2001年 工学部が国公立大学初となるISO14001の認証取得
2004年 文部科学省特色GPに「環境マインドをもつ人材の養成」が採択
2004年 環境マインドプロジェクト推進本部設置
2005年 教育学部がISO14001の認証取得
2006年 農学部、繊維学部がISO14001の認証取得
2007年 松本キャンパスでISO14001の認証取得
2008年 環境マインド推進センター発足
工学部の理念は次の通りである。
「本学部は、恵まれた自然環境の中で個性を生かし、基礎的学力の素養のもとに工学の幅広い専門的知識を有する創造性豊かな人材を養成します。また、工業技術と環境保全との調和に深く関心を持って人類社会に貢献し、高度情報化社会における学際的技術の研究開発や国際化に対応できる人材を育成します。」
理念の中にある「工業技術と環境保全との調和」を実現する技術者を養成するため、1998年に環境機能工学科が設置され、環境マインドを持った技術者の養成をスタートした。そこから環境マインドを持った技術者養成の取り組みを学部全体に展開した。そして工学部のISO14001認証取得に至る。
その後2004年度には、文部科学省の特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)に信州大学の「環境マインドをもつ人材の養成(2004~2007)」が採択され、それを契機に環境マインドプロジェクト推進本部が設置された。この組織は、当プログラムを全学展開する組織で、ISO14001認証取得によるエコキャンパス構築を通して環境マインドを持つ人材の育成に全学で取り組み、信州大学の教育目標の達成に資することを目的としている。
この推進本部の設立によって他キャンパスの環境管理体制の整備も加速することとなり、2007年には主要キャンパス全てでISO14001認証取得を達成した。
●2、信州大学の環境マインド教育
信州大学では、ISO14001の認証を取得したエコキャンパスを、環境マインド育成の実践的環境教育の場とする考え方をとっている。その概念図は以下のようになっている。
全学生を対象とした環境教育として「環境と人間」という科目群を設けている。約40にも及ぶ授業があり、全学生に最低1科目(2単位)の履修を求めている。
信州大学は内部監査を環境教育の中で重視している。環境内部監査員養成講座というものが開かれ、2008年版の環境報告書によれば、2007年度には541名の内部監査員を養成し、学生だけでもこれまでのべ1200名以上の内部監査員を養成してきた。講座の最後に筆記試験があり、その試験の合格者を環境内部監査員に認定する。 工学部では、この講座は選択講義として単位認定される。このようにして内部監査員を養成し、実際に監査を行わせる。一チームあたり、内部監査員2~3名、学生内部監査員2~4名、自治体や企業および団体などの外部から参加する相互内部監査員で構成され、各サイトの監査にあたる。
また内部監査の実務を行う場として学外も想定している。環境マネジメントインターンシップという形で、地域のISO14001認証取得事業所を対象にして内部環境監査に参加する。このように、学内だけでなく地域とも協力しながら、内部監査という実践的な場を通して環境マインドを持つ人材を育成しようとしている。
●参考文献
- ○信州大学環境ISO14001 http://www.shinshu-u.ac.jp/iso14001/index.html
- ○信州大学環境マインドを持つ人材の育成 http://www.shinshu-u.ac.jp/good_practice/ecomind/
- ○信州大学環境報告書2006
- ○信州大学環境報告書2007
- ○信州大学環境報告書2008
- ○信州大学環境報告書2009
- ○私立大学環境保全協議会・ISO14000委員会編著『大学のISO14000-大学版環境マネジメントシステム』研成社、2004年
文責 根本潤哉(環境保全センター研究支援推進員)