島根大学は学生数約6000人の大学である。現在の島根大学は、2003年に旧島根大学と旧島根医科大学が統合して誕生した。そのため、キャンパスは旧島根大学の所在地である松江キャンパスと、旧島根医科大学の所在地である出雲キャンパスから成っている。 島根大学は2006年から2008年にかけてエリアごとに段階的にISO14001を導入し、全国で初めて医学部附属病院を含む全キャンパスでの認証取得を果たした。この島根大学の取り組みを以下で紹介する。
(1)温室効果ガス排出量
松江キャンパスでは2008年度の温室効果ガス排出量を2003年度比で4%削減、出雲キャンパスでは2007年度比1%削減という数値目標を掲げた。 これらの目標を達成するために、両キャンパスでは、電力、ガス、重油、水の使用量削減の実施計画を策定した。結果として、いずれも2003年度比で温室効果ガスを、 松江キャンパスで9.7%、出雲キャンパスで15.7%削減することに成功した。
松江キャンパスでは、電力および重油の大幅な削減などにより、2008年度の温室効果ガスの排出量は2003年度比で9.7%削減した。しかし、法文学部棟と教育学部棟の改築に伴う新たな機器類の増加の影響により、2007年度比では0.1%増加している。 出雲キャンパスは医学部や医学部附属病院から成っている。附属病院は高度医療を行うため、多くの電力を消費する検査機器等を24時間稼働させる必要がある。それにより、他の様々な学部を有する松江キャンパスよりも出雲キャンパスの方が温室効果ガスの排出量が多くなっている。 節水対策とESCO事業による包括的な省エネルギー対策によって、出雲キャンパスの2008年度の温室効果ガス排出量は、ESCO事業導入前の2005年度比15%削減を達成した。ESCO事業の部分運用を開始した2007年度比でも6%の削減となった。
(2)節水対策
これまで出雲キャンパスでは、節水対策としてトイレ洗浄水や散水への中水活用やトイレの自動水栓導入を行ってきた。しかし、出雲キャンパスでの上下水道料金は2007年度に1億2370万円と高額であったため、環境マネジメントの観点からも一層の節水対策が必要とされていた。このため、中水(一度生活水として利用した水を下水道に流すまでにもう一度トイレの流水などに再利用する方法)貯水タンク1機(200t)を増設し、中水貯水量を400tに倍増させた。また、節水ゴマ487個を設置し、女子トイレ擬音装置を設置した。そして、エアコンを水冷式から空冷式へと転換した。これらの対策の結果、2008年度の上水道使用量は2007年度比24%削減となった。2008年度の中水製造量は前年度とほぼ同量であったが、上水道使用量の多い6 ~10月は、中水製造量増加によってトイレなどの洗浄水をまかなうことができた。
上下水道使用料金は2007年度には1億2370万円だったが、2008年度には9460万円と2910万円の節約となった。2008年度の節水対策の投資額の減価償却分は326万円であったため、差し引き額の2584万円が真の節約コストとなる。
(3)廃棄物3
松江キャンパスでは原則としてキャンパス内にごみ箱を設置せず、構成員には学内に2ヶ所設置されている「資源リサイクルステーション」へ分別・持ち込みをしてもらう形をとっている。
古紙対策として、月に1回全学配信している古紙回収日・回収場所の通知メールの中で、前月の古紙回収量やごみの排出状況についての広報を行っている。これにより、構成員は毎月、ごみの排出状況や古紙回収の状況を理解することができる
研究室で不要となった、破損等がなくまだ利用可能な物品を「りゆーす広場」というサイトに出品し、引き取り手を探すことが推奨されている。学内限定のウェブ上にあり、構成員はいつでも見ることが可能である。
このような取り組みが功を奏し、2008年度の可燃ごみ排出量は前年度と比べ、可燃ごみは15.6%の削減、不燃ごみは3.6%の削減となった。これは20トン分の減量を達成したことになる。処理費用も約80万円節約することができた。2008年度減量が進んだ一因として、大規模改修による廃棄物の大量排出が前年より少なかったことも考えられる。しかし、2003年度と比較しても可燃ごみは23.7%の削減、不燃ごみは8.7%の削減を達成しており、当時から継続しているキャンパス内のごみ箱の撤去や構成員への周知などの効果が実を結んだと考えることができる。
(4)EMS(環境マネジメントシステム)
●EMS基本教育
2005年度からは、新入生オリエンテーションで環境マネジメントシステムの基本教育を実施している。松江キャンパスでは、この新入生オリエンテーションは学生EMS委員会委員が説明を行っている。
全構成員を対象としたEMS基本教育は、2004年度から松江キャンパスで、2006年度から出雲キャンパスで実施されている。全構成員とは、教職員・学生に加え、学内で営業する事業者も含む。教育の内容は、キャンパス内の現状、活動計画および報告、今後の課題などである。
松江キャンパスでは教職員を対象として、毎年1回、教授会などの場を利用して研修会を実施している。補講も設け、それでも受講できなかった教職員へは、ホームページに掲載したスライドを閲覧後に報告書を提出してもらうこととなっている。2008年度は学長・副学長を含め、研修会受講率は100%であった。
出雲キャンパスでは、2008年度は全構成員を対象として全4回のEMS研修会を開催した。研修会を欠席した構成員については、各所属部署のEMS推進員が後日説明するようになっている。また、ホームページからEMS研修スライドがいつでも閲覧可能であり、自己研修ができるようになっている。
●内部監査員研修、内部監査
島根大学では、大学でのEMS活動が計画に沿って実施されているか、自ら定めた手順を順守しているかなどのチェックを行う内部監査員の養成を目的として、「内部監査員研修」を実施している。2008年度は、外部講師により松江キャンパスで19名、出雲キャンパスで28名の養成を行った。そのうち学生は11名が受講し、内部監査員資格を取得した。また、2008年度から新たに内部監査チームリーダーとしての力量養成のための「内部監査員スキルアップ研修」を設けた。島根大学独自の視点での演習等を取り入れた内容で、外部講師により松江キャンパスでは13名、出雲キャンパスでは22名の養成を行った。このような内部監査員の養成の他に、ISO14001環境審査員研修も実施している。
島根大学では、大学でのEMS活動が計画に沿って実施されているか、自ら定めた手順を順守しているかなどのチェックを行うため、教職員と学生が内部監査員として、年1回内部監査を松江・出雲両キャンパスで実施している。2008年度は「内部監査員スキルアップ研修」の受講者をチームリーダーとして、松江キャンパスでは13チームの内部監査チームが、出雲キンパスでは、7チームの内部監査員が対象部局等を監査した。
●学生とEMS
松江キャンパスでは、EMS活動の実践を自ら志望した学生に対し、学長名で学生EMS委員会委員の委嘱状を発令し、年度末には感謝状を贈っている。2007年1月からは、学内資格認定制度である「島根大学EMSリーダー」を新たに設置した。これは1年以上島根大学のEMS活動に携わり、ISO14001 内部監査員研修以上の研修修了者であり、EMS活動に対して改善を提案できる学生に付与するものである。また、両キャンパスにEMS実施委員会を設置されており毎月定例の委員会を開催されているが、この場では教員・職員に加え、学生の代表が同じ席上で対等に意見を交わすことができるようになっている。
●参考文献
- ・島根大学環境マネジメントシステム http://www.shimane-u.ac.jp/iso14001/
- ・島根大学環境報告書2006
- ・島根大学環境報告書2007
- ・島根大学環境報告書2008
- ・島根大学環境報告書2009
文責 根本潤哉(元環境保全センター研究支援推進員)